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「左様。かの化狐は名を変え姿を変え、この繕布里の城にて、若殿の傍に侍るという」
「若殿……⁉ 待て、つまり花見丸様の侍従ってことか……?」
「そのようだ。居所を突き止め城に忍び込もうと画策したが、狐の姿では刀を振るえぬし、かといって人の姿では入り込むこともできぬ。狐のまま入り込めたとて、人形とは異なり、神気を抑えられなくなる。即座に奴に察知され撃退されるのが関の山。天から降った際に私の神力のほとんどは主神へお返ししていたため、変化以上に上等な術を、たとえば写し身や神術を使うこともできず途方に暮れていた。そんな折に例の菓子司をとぶらうお触れが出され、お前に出会ったのだ」
「……おれ、か」
「そうだ。天の思し召しか、偶然かは不明だが……」
熱っぽい眼差しに真正面から射すくめられ、参梧は眩暈がした。酔いが回っている気もするし、話も小難しい。だが、この男に心の底から必要とされている事だけは分かる。
「えっと、要は、葛葉の仇が城に居て、だから一緒に花見丸様へ近づきたいってこと、だよな……?」
「そうだ。城主は代々、人たらしの血統だと言ったな? その件か、あるいは花見丸様のご容態に芒丸が絡んでいるのやもしれぬ。あれの考えることはどうも理解できない」
「そんな……」
だとすれば、その芒丸を討伐することに異を唱えようはずもない。敬愛する三繰家家門をたぶらかす妖怪を退治するのだ、これ以上の孝行があるだろうか。
俄然、美味なる菓子作りへの意欲が湧き上がってくる。
「わかった、葛葉を城に入れられれば、全部解決するんだな? 花見丸様も元気になるんだな?」
「確証はないが、おそらくは。我らを謀り、この下界にまで被害をもたらした性悪だ」
「なら、いっそう励まねえとな!」
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