その名は凶星、あるいは吉祥

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 (せば)まった隘路を強引にこじ開けようと、抽挿が激しさを増す。自然と背中がのけぞる。押し寄せる強烈な官能の波を邪魔建てしないよう、水揚げされた魚のようにはくはくと押し殺した呼吸を繰り返す。 「やっ、ぁ……う、あっ……」  頂点まで昇りつめかけたところで葛葉が抽挿を緩めた。それでも堪えきれずに達してしまい、目の前が白む。背筋を感じたことのない絶頂が駆け抜けていく。  にも拘らず、前はまだ昂りきったまま弾けていない。白濁とも先走りともつかないものがどろりと溢れただけだった。ふうふうと息が荒い。まるで威嚇する猫のようだった。  昇りつめてしまえば余韻となるはずの悦楽は、まだ強いまま中に居残り続けていて途方に暮れた。 「はあっ……すまない、無体を強いた……」  ゆるゆると物足りなさそうに、葛葉の雄芯が中を探るように行き来する。気遣っているつもりなのだろうが、これではむしろ生殺しだ。それでもこの身体を気遣おうとしてくれていることが嬉しくて、ねだるように自分から腰を揺らしてそれを蜜路で扱いた。 「い、いい、から、続けて……」 「っ……」  仄かに手元を照らす行灯の光に、畳についた己の手が真白くぼんやり浮かび上がっている。ずっと体重を乗せていたせいか、随分と血の気を失っている。その左手を葛葉が下から掬い取るように重ね、そっと指を絡めて握りしめてきた。ずれた重心を右手で支えるより早く、背中に自重をかけてのしかかるように押しつぶされた。尻だけを高く掲げる格好になる。同時に背中の密着率は高まり、どうしようもないほどぬくくて心地いい。求められ、支配されているような錯覚が歓びに代わる。
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