若旦那は恋ひしき神使と番う

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若旦那は恋ひしき神使と番う

「参梧、今後のことだが」  身を清め終え、葛葉とともに一式の布団に潜り込んで眠りにおちかけていた参梧は、隣から聞こえた声にはっと目覚めた。酔いから醒めた、いや冷や水でも浴びせかけられたように、一瞬で全身が強張る。 「御前試合も片付いたことだし、私もどこかの長屋にでも移り住むべきだろうか」 「…………へ?」  明日にはここを発つ、今生の別れだ――とでも宣言されるのかと思い込んでいた参梧は、拍子抜けを通り越して混乱する。 「参梧……神様のとこに帰るんじゃ……?」 「いや? そうか、お前には説明していなかったな」  葛葉は芒逸との取り決めを語ってくれた。  和解はしたが、芒逸の暴挙は到底許されることではない。天のみならず、結果的に無関係な下界の者にまで甚大な被害を及ぼすこととなったのだから当然である。今後も彼を罰しようと追手が仕向けられることもあるだろう。その罪を軽減するため、あるいは罪滅ぼしのため、しばらくは事件の引き金となった葛葉と共に下界に残り、その興亡を見守ることにしたのだという。 「ゆえに、私はお前の傍に居る。参梧、この土地の謂れを覚えているか?」 「ああ……繕布里は『膳が降り』で、飢饉のときに哀れんだ神様が、自分の膳をひっくり返してお恵みをくだすって、そのおかげで栄えたとかいう」  以降、繕布里は実り多き豊穣の土地として語り継がれるという。 「そう、その神こそ私の仕えるお方」 「……そうだったのか」 「左様、あのお方はこの国にとりわけ目をかけておられる。その臣下である私が守護にあたることにも異論はないはずだ。……お前、私がいなくなると思って、あんな誘うような顔をしていたのか?」  一瞬何を言われたのかわからなかったが、それが情事の最中のことを指すと気づいて狼狽する。図星だった。けれど恥ずかしすぎて認めたくない。ふいに一部の記憶が蘇ってしまうと、芋づる式にまた別のこっぱずかしい記憶が浮かび上がって叫び出してしまいそうだ。  だが、そうか――この耐えがたい羞恥心にも、慣れなければならないのか、これからは。 「そ、そんな顔してねえよ! ……でも、そっか、良かった。すごく嬉しい。どこで暮らしたっていいけど、これからも会えるってことだよな?」 「あ、ああ」  安心すると、頬が緩んでしまう。
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