96人が本棚に入れています
本棚に追加
その可憐な野花がほころんだような笑顔と素直すぎる物言いに、葛葉もまた、思わずにやけるのを必死にこらえていた。
「じゃあ、その、これからもよろしくな、葛葉」
「……ああ、こちらこそ」
かなわないな、と葛葉が苦笑した。参梧はどこか間抜け面で内心首を傾げる。それがいっそう愛おしいのだと、この鈍感な情人にどうすれば伝わるのか、葛葉はしばらくの間頭をなやませることとなる。
「よく頑張った、参梧。そして、私の進むべき道を示してくれてありがとう。これから先もずっと、伍敷屋に、お前に幸の多からんことを」
その額に口づけを落とし、これからの幸福と、この町の平穏を祈る。
妙なる神使の言祝ぎに、参梧はひとり、永劫の幸福を確信した。
その後――再興を果たした繕布里には名君が絶えず、天候と土壌にも恵まれ、天下に名を轟かせる都となった。
菓子司と神狐の子が後の世を守り、元妖狐は主君の帰りを待ち続けることとなるのは、また別のおはなし。
最初のコメントを投稿しよう!