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「じゃあさ、夕飯作り手伝ってよ。お腹空いてない?」
「え?」
「ひとり暮らしでしょ、自炊してる?」
「あの、もちろん喜んで手伝います!」
それからふたりはキッチンに並んだ。ニコは冷蔵庫を見てもいいかと尋ねてから扉を開ける。中には調味料や卵などの食材にまぎれて、異様に場所を取っている野菜があった。
「どうしてこんなに、エンドウばっかりあるんですか?」
いぶかしげにニコが指さした先には、ビニール袋に詰められた、青々としたエンドウが並んでいた。
「大家のおばちゃんがさ、畑で採れた野菜をお裾分けしてくれるんだけど。おいしかったってお礼を伝えたら、次の日から毎日のように届けてくれるんだ。
「田舎あるあるですね」
「いくら好物でも、さすがにこんなに食べきれないよ」
ニコはおかしそうに肩を震わせた。
「エンドウは採れる時期が短いですから。好きなだけ食べれるのは今だけですよ」
「そうなの?」
「6月に入ったら、今度は夏野菜がたっぷり来ますよ。ピーマンとか、きゅうりとか。それこそ食べきれないくらい」
「そしたらニコにあげるよ」
「ほんとに?」
名前を呼ばれてふいに見上げた先に、枯葉色の先生の瞳と目線がぶつかる。頬はうっすら赤くなっているみたいだった。
「先生、日に焼けました?」
「少しね。ヒリヒリしてる」
「色白だから、肌のためにも日焼け止め塗った方がいいですよ」
「今さらこの歳で?」
先生が目尻を下げて、ふっと笑う。その笑顔に弱い。心臓の音が届くんじゃないかと思えるほど近すぎる距離に、ニコは頬をこわばらせたまま、話題を変えた。
「エンドウを使った料理でどうですか。エンドウと卵の炒め物と、エンドウをたっぷりのせたかけそばとか、どうです?」
「あぁ、いいね。料理、得意なの?」
「まあ、多少は」
「謙遜しなくていいよ。レシピがすぐに浮かぶ人は料理上手に決まってる」
「得意というか……必要に迫られて作っていただけです。とりあえずお米を炊いて、あとは本当にありあわせで」
ニコは冷蔵庫から必要な食材を取り出し、中腰の姿勢から背中を伸ばした。
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