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「貴方のことはやはり貰います」
彼女は手にナイフを持ってそれを僕の血で染めている。
ザクザクと腹部を切り裂かれる痛み。もう逃げる力はなくなっている。僕はその場に座り込んだ。
「この世界で叶わないんなら、天国に一緒に行きましょ」
いつかの僕と同じようなことを話してる。叶わないだろうに。
それでも信じている瞳に迷いはない。後輩ちゃんは自分の首元にナイフを当てる。
死すらを恐れないくらいの恋。僕だって知ってる。恐らく誰も同じ。後輩ちゃんが悪いわけじゃない。だけど僕のその相手は彼女だけ。
「人は死んだら終わりなんだよ。天国なんてない。待っているのは喜びも悲しみも自分さえない無だけなんだから、辞めなさい」
もう血だまりに座って眼も霞むだけになってる僕の言葉。
「そんな筈ない。きっと私と貴方の恋が叶う世界だって有るんだ。願いは叶うんだ」
「違う。死んで素敵な世界が待ってるなら、彼女はさようならなんて言わないよ。誰も悲しまない」
「それでも私は貴方が好き。最期くらいは一緒に!」
言葉と一緒に後輩ちゃんはナイフを振る。雨のように血が舞うと後輩ちゃんは力なく倒れる。力もない僕はもう眺めるだけ。
「叶わんよ」
呟き残るのにそれからなんて無になる。
おわり
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