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「どうしたの? 落ち着いて。聞いてるから。ね?」
僕は後輩ちゃんのほうに近づいて、肩に手を置いて聞く。彼女の話は聞きたいから。
「先輩が居なければ、貴方は私のものになる。子供が生まれる前にどうにかしないとって、思って」
「どうにかってどう言うことなんだい?」
なんだか聞かなきゃダメな話の気がして泣いている後輩ちゃんの肩を強く掴む。
「私が殺したの! 先輩の飲み物に毒を混ぜた。ずっと、入院してからも!」
吐き出すような彼女の言葉。
僕の視界がグルグルと回る。天と地がひっくり返るみたいに。
「そして先輩は死んだ。これで貴方を手に入れられる。そうなる筈だったのに!」
涙を流しながら後輩ちゃんは僕を見つめている。とても強い視線で。
だけど、今は僕も後輩ちゃんを睨んでた。きっともっと強い瞳で。
お互いに涙を流してた。
「許せませんか? 先輩を殺した人間なんですからそうですよね?」
パタンと彼女の口調が違っておとなしくなる。さっきまでとは違う。
「そんなことは無いよ。君は僕を愛してたんだね。解る。僕だって彼女のためならそんな恐ろしいことだって考えかねない。恋って怖いんだ」
本当に怒りは無い。だって後輩ちゃんを許さなかったとして、それで彼女が戻ることなんて無い。これが彼女がまだ生きていたなら違うのに。
そして後輩ちゃんの恋心だってわからない訳じゃない。どうしても愛し、愛されたい人だって居るだろう。僕にとっての彼女みたいに。
だからもう良い。真実がどうだって彼女はもう戻らないんだから。
僕はそう思いながらも涙が流れ続ける。
「そう言うところ、も好きなんです。やっぱり貴方しかしない」
納得したみたいに後輩ちゃんは落ち着くと、次に僕の元に歩き始める。
僕と後輩ちゃんの距離が無くなって、僕が気が付いたのは痛み。
彼女を亡くした心の痛みじゃない。
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