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「おれ、男子校で、ずっと笠屋と一緒にいてさ。そのせいでなんか、感覚バグってるのかなって思ってたんだ」
あぐらをかいた左右田が、付け髭を剥がした口を歪めて視線を落とした。
「笠屋はよく食うし口悪いし、おれより漢って感じのとこいっぱいあるのに、おかしいだろ? そういうとこも全部、……とか、思うのってさ」
とか、の前は絶対、発音してない。けど、唇の動きで何を言ったのかはたぶん、分かった。
「大学入って、女子がまわりに普通にいて、そしたら大丈夫かなって思ってたのに。なんかおれ、全然だめでさ。ほんと毎日、だめでさ……」
左右田が顔を上げて、俺の顔をじっと見る。昔みたいに、一番近い場所で。そしてその目は、嬉しいのかつらいのか、ギュッと細くなった。
「バグじゃなかったって自覚して、でも、笠屋が東京で彼女作ってたらとか考えると、普通に会いに来るの無理だったから……」
「で、侍姿ですか」
俺は小さく唸った。左右田にしては、ちゃんと説明してくれたと思う。気持ちもわからんではないし、むしろ身に覚えのある葛藤だ。だけど、偽装に振り回されたこっちの身にもなってほしい。
「お前すげぇ仏頂面しててさぁ、ちょっと怖かったんですが?」
「だって……笠屋が目の前にいるってだけで、なんかおれやばかったんだよ。顔面に力入れてないとにやけてきて」
「んだよそれ、俺のこと大好きかよ」
「だな」
「だな、じゃねんだよ!」
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