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本当に、肝心な単語を言わない口め。俺がそのせいで、どんだけ奥歯と精神すり減らしたと思ってるんだ。
「お前さぁ、俺がなんで東京で一人暮らししてまで外語大行きたかったか、考えたことねぇだろ」
「英語が好きだからじゃないのか?」
「別にそこまで好きじゃねぇよ。将来必要だと思ったから、途中で進路変えたんだっつの!」
去年の秋、左右田は俺に聞かなかった。なんで東京の大学に行くのか、何を目的としているのかを。俺は聞いてほしかったのに。それか、引き止めてほしかったのに。だけど今考えれば、俺だって言葉が足りなかったんだ。
俺はあの日伝えられなかった将来の夢を、ここで打ち明けることにした。
「左右田、アメリカ行こうぜ」
藪から棒の誘いに、目の前の男は目を丸くした。なんで突然、アメリカ? そう思っているのが手に取るように分かる。
「知らねぇだろうけどな、日本人の男同士でも、アメリカでなら結婚できるんだぜ」
「マジで?」
「マジで。超真剣に調べたんだからな、これでも」
左右田と二人で生きていく未来を。公的に認められる方法を。そしてそのためには、ある程度以上の英語を話せるようになっておかなければダメだということも。
「実際行けるのは何年先になるか分かんねぇけどさ……俺はそういうつもりで、大学の四年間はお前と離れてがんばろうと思ったんだよ」
「そう……だったでござるか」
「なんでまたござるだよ!?」
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