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2 七星くん家の裏庭
「こっちだよ」
七星くんが玄関横を通って、庭の奥へと歩いていく。
私は案内されるまま、七星くんの後ろをついていった。
ひゃあ。けっこう七星くんちって広いんだなぁ。
お花がいっぱいの庭を通って家の裏側へまわると、オレンジ屋根の建物があった。
一階建てで、七星くんの家よりはちょっと小さい。
ドアの前に着くと、七星くんが振り返った。
「ここなんだけど」
ここ?
この建物の中でお仕事のお手伝いするってこと?
「きゃああっ!」
「ニャハハハ~!」
ドアは閉められてるのに、中からさわがしい声が聞こえてくる。
「ビビビビッ」
ガシャーン! ドーン!
なにか物が落ちた音に小さい子の声。
この部屋の中、どうなってるの?
……なんか、このドア開けるのこわいんですけど。
七星くんはくちびるをひきつらせ、ドアにもたれかかった。
「あはは。普段はもうちょっと静かなんだけどな。ちょっとさわがしいけど、気にしないで……その前に」
七星くんは言葉を止めて、急に人差し指をくちびるの前に立てた。
「ここで見たこと、聞いたことは絶対にひみつにしてほしいんだ。たとえ仲良しのゆずちゃんにも言っちゃダメ。約束……してくれる?」
ひみつにする? 一体、この中なにがあるの?
でも、きっと約束しないとこの中には入れてもらえないよね?
「……分かった。約束するよ」
「……ありがとう!」
七星くんがうれしそうに笑って右手の小指を出してきた。
ドキドキしながらも、七星くんの小指に私の小指をからませる。
私と指切りし終わった後、七星くんがドアに手をかけた。
「じゃあ、開けるね」
ガチャッとドアを開けた瞬間、
ビュオオッ……
いきなり風とともに冷たいカタマリがべしゃっと顔に飛んできた!
「ぶわわっ。な、なに?」
冷たい! 寒いっ! 顔が凍るっ!
あわてて腕で顔をガード!
顔にへばりついたものを手に取ってみると……
……雪?
なんで? 今、秋だよ? 今日そんなに寒くないよ?
七星くんと私の顔は一瞬で雪まみれ。
私の前髪と七星くんの長いまつげまで凍っちゃってる!
「こら! マユキ! やめろ」
七星くんが叫ぶと、ぴたっと吹雪が止まった。
白かった視界が晴れてきて、だんだん中が見えてくる。
小さな玄関の向こうは広い部屋。
おもちゃが入ってる棚があって、小さなテーブルが窓際に置かれてる。
ここは……子ども部屋?
まだ白い視界に目をこらすと、目の前に小さな女の子が現れた。
真っすぐに切りそろえられた前髪に、腰まであるきれいな黒髪。
白の着物ドレスを着ているその女の子は、じろっと私を見上げる。
誰だろ? この子。
もしかして七星くんの妹とか?
でも、七星くん、一人っ子って言ってたよね。
コンッ。
「痛っ!」
突然、私のおでこに何かが当たった。
落ちたのは、ティッシュの箱。
よく見ると、天井におもちゃや絵本、タオルまでプカプカ浮いてる!
え? 浮いてる? なんでっ?
「セナ! 物を浮かせちゃダメだって言ってるだろ!」
七星くんが部屋の中央に座っている銀髪の男の子に言う。
ぼとぼとぼとっ……
天井に浮いてたものが次々と落ちてきた。
部屋の中はうっすら雪が積もってて、その上を猫耳がついた男の子が「にゃははははっ」って笑いながら、ゴロゴロ転がって遊んでる。
「あの……七星くん。状況が全然理解できないんだけど」
「えっとね……何から説明したらいいかな」
七星くんが頭をかきながら、目を泳がせた。
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