3 ひみつの保育園

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「いつもはこの三人しかいないんだけど、最近、鬼の赤ちゃんを預かることになってさ。しかも、双子」 「双子? 鬼?」 「うん。あっちで寝てる。さっきの騒ぎでも起きないのがすごいよね」 七星くんが指さす方を見ると、部屋の隅にベビーベッドがあった。 ベッドの柵の間から赤と青の小さな足が見える。 そーっとベッドに近寄ってみると、赤鬼と青鬼の赤ちゃんが二人そろってすやすや眠ってた。 ぷっくりしたおなかが上下に動いてる。 赤鬼ちゃんはツノが一本、青鬼ちゃんはツノが二本。 鬼って言っても、こんなに小さいとすっごくかわいい。 七星くんが私のとなりに来て、深いため息をついた。 「この双子を預かってすぐ、ちょうど父さんと母さんが風邪で体調崩しちゃって……ぼく、一人でこの子たちを見ないといけなくてさ。もうてんてこまいだよ」  一人で? この子たちを?  ……それは大変だ! 「……もしかしてそれで休んでたの?」 「うん。父さんたち、本格的に寝込んじゃってさ。ここ二日ほど、ぼく一人でこの子たちをみてて……ちょっと限界」  カクンと七星くんが頭を垂れた。 「……た、大変だったね~~」  私の声に、びくっと赤鬼ちゃんの体が動いた。  あわわ。せっかく気持ちよさそうに寝てるのに、起きちゃう。  双子ちゃんを起こさないようにベッドを離れて、また小さなテーブルの前に座った。  ミケトくんたちは、ブロックのおもちゃを出して遊び始めてる。  あらためて思うけど、この三人と鬼の双子ちゃん。  この子たちを一人でみるって絶対大変だ。  だって、うちの弟や妹みるだけでも疲れるんだよ?  そりゃ、七星くん疲れちゃうよ。  考えるだけで私も疲れちゃって天井を仰いでると、七星くんが気をつかったようにきいてきた。 「あの……苺ちゃん、びっくりしてない? オバケとか妖怪とか……こわくない?」 「う、うん。大丈夫だよ……」  そうは言ったものの。  妖怪とか宇宙人とか……まだ信じられない。  でも、いきなり吹雪が吹いてきたり、物が浮かんでたのを見てしまったし。  うん。一応確認しておこう。夢か現実か。  ほっぺをぐいーーっと引っ張る。  ……痛い。  やっぱり現実なんだ。  なにより七星くんがウソつくなんて思えないし。  引っ張ったほっぺをさする私を見て、七星くんは目をパチパチさせた。 「そうだよね……やっぱり信じられないよね」  七星くんは頭をがりがりっとかいて、うつむいた。  それから、少し考え込んだように黙ったあと、ピンと姿勢を正して真っすぐ私を見た。 「それで、さ。……苺ちゃん、無理なお願いって分かってるんだけど……」 「うん。なに?」 「この子たちみるの、手伝ってくれないかな? 父さんたちが復活するまででいいんだ。少しだけでも手伝ってくれれば助かるんだけど」  弱々しい声で七星くんが言う。  電気の光でくっきり見える七星くんの目の下のクマ。  普段は少し日に焼けた元気な顔色なのに、オバケみたいに青白い。  いつも元気な七星くんがしんどそうなのは、私もいやだ。  手伝ってあげたい。だけど。 「あの……私、保育士さんとかじゃないよ? ただの小学生で資格なんか持ってないし」  普段、家で弟たちの面倒はみてるけど、それは家族だからだし……  あれ? でも七星くんは資格とか持ってるの?   そんなわけないよね。小学生だし……  むむっと考えてると、七星くんがちょっと表情をやわらかくした。 「あぁ、それは大丈夫なんだ。人間の世界とちがうから。妖怪、オバケ、宇宙人、各界では『異界の者を認め、子どもを愛せる者なら保育の仕事をしても良い』ってなってるんだよ」 「へぇ。そうなんだ」  なんか難しい言葉でよく分かんないけど……  とりあえず、妖怪やオバケの世界では、私や七星くんがこの子たちをみてもOKなんだ。
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