プロローグ

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「つまり、凪沙が星露学園に行きたいのって、全寮制なのが理由?」 「それもあるけど……」  両親に私の思いを伝えたい。その一心で、日々ネットで調べた情報をもとにプレゼンをする。どこがいいのか、どうしていきたいのか。こう見えてもプレゼンや交渉は得意だから、嘘は言わず、両親が納得できるような話し方をする。 「楽しそうよね……。ねえ父さん、凪沙のこと、応援してあげましょうよ」 「でも、合格したら寮に行っちゃうんでしょ?セキュリティが心配だよ…」  父さんの心配はそこか。 「父さん、安心の材料になるかはわからないけど、一つ聞いて。星露には、畠山財閥(はたけやまざいばつ)のお坊ちゃんも通ってるんだよ。日本を代表する会社の息子がいるんだから、セキュリティは万全じゃないと通わせられないんじゃないかな」 「そうか、畠山財閥の……」  畠山財閥。日本有数の巨大企業。畠山グループとも呼ばれる。 プチプラ雑貨から鉄道やファッション、自動車まで、幅広いジャンルを手掛ける超巨大グループだ。 「あ、そういえばあなた、畠山財閥のお嬢様って、凪沙と同じ年じゃなかった?お兄ちゃんがいるから、きっと受験するわよ。セキュリティがダメなら、子供を二人も通学させるかしら?」 「うぐっ……」  まだウンウン悩んでいた父さんに、母さんが私に助け舟を出してくれた。 「……わかった、わかったよ。でも凪沙。受けるなら、その覚悟で勉強するんだよ」 「ありがとう父さん!やっっっっったぁー!」  両親から応援をもらった私は、お腹のそこから声を張り上げた。 「凪沙、うるさい」  これには母さんも顔をしかめて、私に注意を飛ばした。 「ごめん。えっとね、星露には、オーケストラ部もあるんだよ」  先ほどの注意をものともせず、私は星露について語る。 「オーケストラ部かぁ、いいねぇ」  父さんが目を細める。 「オーケストラがある学校なんて珍しぃなぁ。吹奏楽もあるんでしょ?楽器だらけだね」 「うん。でも、オーケストラ部に入りたいわけじゃないの。陸上部、合唱部、弓道部や、茶道部、華道部とか、弓道に似たアーチェリー部とかもあるんだよ。運動系や楽器系の部活は強いんだって」 「同好会やクラブも充実してるのね〜。ロボット研究会とか、科学研究同好会、漫画同好会に家庭科クラブ。起業同好会なんてのもある。起業するのね、実際に。楽しそうじゃない」  両親は部活の話に花を咲かせ、私はそんな両親を横目に見ながら考える。 畠山財閥を始めとする巨大企業の子供が沢山受験しに来る。そういう子たちは専属家庭教師を雇ったり専門の塾に通ったりして、徹底的に勉強をする。  そうなると、まだ勉強を初めていない私は、受検においてとてつもなく不利になる。だから。 「父さん、母さん。私本気で星露を目指してる。だから、本気で勉強をしたい。協力してください」  席を立ち、二人に頭を下げる。  二人とも、今度は柔らかな微笑みを浮かべてうなずいてくれた。
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