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「えっと、梅崎さん、そんなに固くなくてよろしいのですけれど……」
牡丹がそういうと、時羽はぱっと顔を上げた。
「え、國武さんも固くなくていいの?凪沙みたいに?」
なんだそうなんだ、と時羽は胸をなでおろす。
「なんで固かったの?」
私が聞くと、時羽は目を潤ませてこちらを向く。
「よくぞ聞いてくれた凪沙!私ね、ルームメイトの子に凪沙と同じ感覚で話しかけたの。そしたらさ、その子、なんて言ったと思う?『気楽に話しかけないでくださいます?』ってさ!」
真似しているのか、高い声で手を頬に当てて話す時羽。
「なんでだろうな、凪沙とおんなじ感覚じゃあだめだったのか、って思った。凪沙恐るべし、だよ」
「その点は深く同意できますわ、梅崎さん。初対面でとても気軽に話しかけていただいたのですが、私も驚きました。お陰で気楽に接せているのでありがたいのですが」
なにやら私が思ってもみないところで二人は意気投合したらしい。凪沙恐るべし、というのは非常に不本意だが、二人が仲良くなったならそれで良しとしよう。
「あ、早く行かないと授業に遅れてしまいます!早く行きましょう。」
「そうだね。ちょっと凪沙、何をぼんやりしているの」
牡丹は瞳をきらきらとさせて速足で寮を出て行った。
「ぼんやりっていうか、二人でマシンガントークしてたじゃんか……」
「國武さんと仲良くなれたからそれでいいの」
はあ、とため息をついて下を向くと、見覚えのある鞄が置いてあった。
「これ……國武さんのじゃない?」
ぽつりと心配そうに時羽が言った。
まさかそんな、と鞄を開けて持ち物の記名を見ると、きれいな字で「國武牡丹」と書いてあった。
「牡丹のだ」
「やっぱりね。授業が楽しみすぎて持ってること忘れちゃったのかな。早く追いかけよう」
時羽は私の背中を押して、寮の外まで出した。重厚な扉を抜けると、雲一つない真っ青な空が広がっていた。
「青いねえ」
「そうだね」
ぼんやりと空を見上げていたら、いつの間にか、横にいた時羽がいなくなっていた。
「おーい、早く来ないとおいて行っちゃうよ」
5メートルほど離れたところに時羽が立っていた。
「すぐに行く!」
時羽に向かって声をかけながら、右手に牡丹の鞄、左手に私の鞄があるのを確認して力を込める。
軽く飛んで、石畳の道を蹴って駆けだすと、世界が私に注目している気分になった。全身で風を受けていると、風と一体になった気にもなる。
「凪沙、速いね」
少し驚いたような顔をして、時羽も同じように走り出す。
風が気持ちよかった。
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