星露学園

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「あの、時羽……さん?」  質問をしかけたところで不自然に語尾が上がってしまった私が面白かったのか、彼女は口元に手を当ててお上品に笑った。 「お好きなように呼んでいただいて構いませんよ。あなたのお名前も教えてくだいませ」 「あ、角坂凪沙……です」  そう名乗ると、「では、凪沙さんですね」と言った。同年代の友達にさん付けで呼ばれるのはあまり慣れない。 「さん付けじゃなくても。凪沙でいい……です」  友達に敬語を使うのは難しい。どうしてもタメ口になってしまう。 「無理して敬語を使わなくても宜しいのでは?話しにくそうですけれど」  可笑しそうに眉毛を下げた彼女に対し、私は早口で言った。 「あの! 私は友達に敬語使うとか無理だし、さん付けで呼ばれるのも、呼ぶのも慣れないし! みんなみたいにすごい家柄の子じゃないけど頑張って努力したし! だからタメ口なのも呼び捨てで呼ぶのも、あったかい目で見てくださいっ!」  息継ぎをせずに一息で言い終えると、時羽が笑いを堪えるような顔をしていた。 「なんだなんだ、ぜんぜんタメ口でも平気な子じゃん、凪沙!」 「えっ……?」  突然の砕けた言い方に動揺する。 「え、時羽…だよね?」  別人のような口調の変わりように驚く。 「そうだよ〜。これが私。んもう、いっつも敬語でなんか話せないんだから」  頬を膨らませ、少し怒ったような顔をする時羽。 「あー、やっぱ呼び捨てされる方が楽かな。私にとっても。『時羽さん、だいじょうぶですの?』『時羽さま、紅茶をお持ちいたしました』って。いやいや、私中1よ? 年上の人に敬語と様付けされて、ムズムズした〜」  使用人や知り合いの真似なのだろう。声音を変えて言ってケラケラと可笑しそうに笑っていた。そして「気楽な方がいいよね」とつぶやく。  状況の変化についていけていなかった私も、段々と理解が追いついてきた。時羽は、敬語が嫌い。というか、丁寧に接せられるのが嫌な子なんだ。 「丁寧に接するのが嫌なの? じゃあなんでさっきまでは敬語だったの?」  不思議に思い尋ねると、 「お嬢様らしくしなきゃって、必死だったんだよね。今はもうだいぶ昔のことみたいに感じてる。ついさっきのことなのに」  苦笑とともに戻ってきた言葉。 「小学校の時は、結構やんちゃで。走ったり、ジャンプしたりなんて普通にしてた。そしたら執事さんたちに怒られちゃって。お嬢様らしくしなきゃ、家の恥ですよって」
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