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海風が曹達水の染みたスカートを揺らす。
「……夏が終わると死にたくのはどうしてだろうね」
音流は汀のほうに行ってしまった。
空っぽの曹達水が彼女の代わりに立っている。
「死ぬの?」
「自傷行為だよ。忘れないための」
波が音流の足を蝕んでいく。
「恋は思い出になるけど思い出はいつか忘れる。そうならないように傷を作るんだ。そうすれば、傷を見る度に思い出す」
そして、薄闇のなか海に消えていった。
細波が鼓膜のなかで唸り、空は灰簾石になった。それで、一つ思い出す。
「灰簾石の鉱物名はブルーゾイサイト。でも青い自殺と響きが似てるから宝石商ティファニーがタンザナイトって名前で紹介したんだって。青い自殺。今の私たちみたい」
私は階段を下りながら、ローファーを脱いで、靴下を脱ぎ捨てた。空っぽの曹達水を飛び越えて、素足に砂を纏う。もう、夏服に用はない。夏の終わりの海は別世界のように冷たかった。
私は曹達水のような波に飲まれていった。
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