8月19日 土曜日

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「だから暑いって言ったのに」  道端の木の陰で、陸は夏海に膝枕されていた。  三十分ほど走ったところで、陸が音を上げた。  祖母の家から陸が先導で走り出し、夏海がそれに続いた。  陸には自信があった。小学校のマラソン大会でも小一からずっと学年上位に入ってきた。たとえ中学生でも女子なんかに負けるわけがないと思っていた。  その目論見が、見事に外れた。  陸の後ろを、夏海はぴったりくっついてきた。引き離そうとして陸がペースを上げても、夏海はまったく離れなかった。汗みずくになりながら陸が振り返ると、夏海は涼しい顔で笑いかけてきた。  結果、無茶なペースで勝手に自爆した陸を、夏海が介抱している。  「まぁ、ちょっと涼んでればよくなるよ」  陸の顔を覗き込む夏海。さすがに汗はかいているが、表情は余裕そのもの。陸を励ますためか、明るい笑みを浮かべている。  その笑顔と、後頭部に触れる柔らかな感触に、陸の中で様々な想いがごちゃ混ぜになって渦巻く。 「もう大丈夫」  がばと、陸は起き上がった。一瞬ふらつきそうになるが、ぐっと踏ん張って持ちこたえる。 「まだ寝ときなって」 「大丈夫!」  夏海の気遣いも、陸は胸を反らして猛然とはねのけた。 「わかったわかった。それにしても暑いねー」  雲ひとつない夏の空を見上げる夏海。降りそそぐ日差しは地面を焦がし、遠くには陽炎が揺らめいていた。風もほとんどなく、草いきれがあたり一面に漂っている。  走るなんて言い出さなければよかった、こんなに暑いし、それに── 「そうだ! 涼しいところに行こうか!」  陸が後悔に苛まれていたそのとき、夏海が元気よく言い放った。
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