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「だから暑いって言ったのに」
道端の木の陰で、陸は夏海に膝枕されていた。
三十分ほど走ったところで、陸が音を上げた。
祖母の家から陸が先導で走り出し、夏海がそれに続いた。
陸には自信があった。小学校のマラソン大会でも小一からずっと学年上位に入ってきた。たとえ中学生でも女子なんかに負けるわけがないと思っていた。
その目論見が、見事に外れた。
陸の後ろを、夏海はぴったりくっついてきた。引き離そうとして陸がペースを上げても、夏海はまったく離れなかった。汗みずくになりながら陸が振り返ると、夏海は涼しい顔で笑いかけてきた。
結果、無茶なペースで勝手に自爆した陸を、夏海が介抱している。
「まぁ、ちょっと涼んでればよくなるよ」
陸の顔を覗き込む夏海。さすがに汗はかいているが、表情は余裕そのもの。陸を励ますためか、明るい笑みを浮かべている。
その笑顔と、後頭部に触れる柔らかな感触に、陸の中で様々な想いがごちゃ混ぜになって渦巻く。
「もう大丈夫」
がばと、陸は起き上がった。一瞬ふらつきそうになるが、ぐっと踏ん張って持ちこたえる。
「まだ寝ときなって」
「大丈夫!」
夏海の気遣いも、陸は胸を反らして猛然とはねのけた。
「わかったわかった。それにしても暑いねー」
雲ひとつない夏の空を見上げる夏海。降りそそぐ日差しは地面を焦がし、遠くには陽炎が揺らめいていた。風もほとんどなく、草いきれがあたり一面に漂っている。
走るなんて言い出さなければよかった、こんなに暑いし、それに──
「そうだ! 涼しいところに行こうか!」
陸が後悔に苛まれていたそのとき、夏海が元気よく言い放った。
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