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美味しい日本料理弁当を食べた後は、一華の手作りブラウニーと龍輝が買っておいたつまみで乾杯する。
今日はお安く缶チューハイ。龍輝が何気なく買っていたチーズ鱈とするめのおつまみに、一華がにこにこしている。
「え? 一華さん、するめ好きなの?」
「まあね。でも、これって糖質が少ないお菓子って知ってた?」
「おお、知らなかった」
「筋トレ中に食べてもいいお菓子なの。DHAや必須アミノ酸も入っているし」
「へぇ。本当によく知っているよね」
心から感服する。
「でも、お酒飲み過ぎちゃうとアウトだけれど」
そう言いながらも、潔く缶チューハイに口をつけた一華を見て、龍輝が吹き出した。
「そういう割には飲みっぷりがいいね」
「あ!」
恥ずかしそうに顔を赤らめた一華に、龍輝がもう一度乾杯と缶をぶつける。
「ちゃんと糖質オフって書いてあるのにしたから、大丈夫だよ」
「うふふ。ありがとう」
お家デートで何をしようかと思っていたけれど、こんな風にとりとめのない話をしているだけで楽しい。
龍輝は一華の横顔を見つめながら、そう思っていた。
両手で抱えた缶チューハイを胸前に持ちながら、一華の視線が部屋の中をクルリと見回す。
ふと、本棚の一点に目を止めた。
「あれ、紅子の写真?」
「そう。出産した時の、記念に現像した」
「見てもいい?」
「もちろん」
一華から紅子に触れてくれることが嬉しくて仕方ない。写真立てを取ろうと動き出したら、一華も一緒に動き出していた。
二人で一緒に本棚前に移動して、また肩をくっつけ合って紅子の写真を覗き込む。
「小さい紅子がいっぱいだ!」
「そう。エフィラが、ポリプから切り離されて動き出した時は感動した」
「そうだよね。感動するよね」
熱心に魅入っている横顔に視線を戻す。愛おしくてたまらなくなった。
今の俺は冷静だ。唇にキスしてもいいかな?
「ん? どうしたの?」
そう言って振り向いた一華、予想外に近づいている龍輝の顔に驚いた。
え、ええ! 近いんだけれど!
でも、龍輝の瞳を見て理解する。リラックスしたように目を瞑った。
今度は唇にキス。軽くついばむようなキス。
目を開いて笑い合う。
どちらからともなく、もう一度ついばむ。
ああ、やっぱり柔らかくて美味しい。
龍輝は満足気に微笑んだ。
そう、こうやって少しずつ。
どんな恋の過程も楽しみたい。
初心なキスも段階を踏んで、いつか君を虜にするキスを―――
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