キスってとても難しい(龍輝side)

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 玄関へと誘う一華の背を見ながら、龍輝は自分の判断に自信が持てなくなった。  このままキスもしないで帰るのか? 俺はそれでいいのか?  一華さんを待たせ過ぎじゃないのか?    この、意気地なしが!    衝動的になりたくない―――そう思っていたのに。  衝動的に一華の肩に手をかける。  口から洩れたのは、もう隠せないほどに膨れ上がった願望。 「やっぱり、キスしていいですか?」    そんな龍輝の勢いに戸惑いつつも、一華が言った一言は健気だった。 「いいんですか?」   『あなたの言葉は、私の気持ちと一緒よ』  そう言ってくれているようで嬉しかった。龍輝の力みがすうっと消える。  ああ、やっぱり彼女は優しい! 「それ、俺のセリフ」  口元に笑みを浮かべられるくらいには落ち着けた。抱えるように見下ろしながら、今度は静かに囁く。 「俺が一華さんにキスしたいんです。じゃあ、目を瞑ってください」 「はい」  目を瞑って顔を上げた一華。自然体に見えるが、実は緊張で少し震えている。  愛おしくて、優しくしてあげたくて、慈しみの心が沸き上がる。  あれほど食べたかった一華の唇。  後一歩のところ。もう、手に入る直前。  ああ、でも困ったな。  やっぱりちょっと酔っ払ってしまった。    今唇にキスしたら……俺は俺を止められなくなってしまうだろう。  大事にしたい。  彼女も。彼女との全てを。  だから……龍輝は唇へのキスを断念する。  その代わり、額に―――  アイシテルの言葉を乗せて、キスした。  彼女の額は少し冷たくて、滑らかで。  でも、彼女を守るバリアを吹き込めたような、そんな高揚感。  ああ、男ってバカな生き物かもしれないな。  こんなことで、彼女を守れる気でいるなんて。  でも、これが(さが)なのだとしたら……俺は今、男で良かったと思える。  照れくさくて仕方ないけれど。
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