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メッセージを打ち込む時間ももどかしくて、だんだん短い文章になっていく。
リズムよくやり取りをしていたら、いつの間にかLineの文章が敬語ではなくなっていた。
おお、いい感じ!
この方が話しやすいな。
龍輝は思わず携帯に向かって微笑んだ。
『一華さんは今日はどうするの?』
『何も予定入れてない』
『じゃあ、ウチくる? 昨日のお礼』
『いいの!』
『今から掃除する』
『無理しないでね』
『大丈夫。物凄く良く寝たから寧ろ元気。でも、一華さんの部屋のように広くも綺麗でも無いけど』
『楽しみ! 食べ物買っていくから』
『OK。じゃあ、掃除終わったら連絡する』
あれほどハードルが高く思えたお家デートが、一気に身近に感じられるようになった。
一緒に何しようかな?
とりあえず冷蔵庫から牛乳を取り出すと、袋が開きっぱなしで湿気始めたシリアルと共に皿に注ぎ入れた。
慌てて食べようとして、ふっと止める。
こんないい加減な生活じゃだめだな。ゆっくり噛んで食べなきゃ。
そう思いつつも、「ま、明日からな」と考えを翻す。
一口掬って口に入れては、もぐもぐしながら散乱しているゴミを集める。
洗濯物を一気に洗濯機に放り込んで回そうとして、ハタと気づく。布団のシーツを慌てて剥がして一緒に放り込んだ。
予備のカバーってあったかな? ガサゴソとクローゼットを引っ掻き回すもやはり無い。
うーん、買い物も行かないとダメか。
掃除機をかけながら、本棚や机の上を整える。
龍輝の部屋は文字通りワンルームの作りなので、キッチンも同じ空間にある。ほぼ使わないから、匂いとか油の汚れとか気にする必要は無いが、ベッドと本棚と机を置いたらソファなんて置く場所は無い。床に座るかベッドに座るか。
一華さんに何処に座ってもらえばいいのかな?
よし! ダッシュで布団カバーとクッションを買って来よう。
近所のスーパーへひとっ走り。とりあえず体裁を整えることはできた。
ついでに、飲み物やつまみを買って帰る。洗濯物をベランダに干し終わったら準備完了。
駅まで迎えに行くとメッセージを送った。
昨夜化粧を落とさずに寝てしまった一華。痛恨のミスに後悔しつつも、あまり残念に思っていないのは、やはり龍輝のキスの余韻が残っているから。
寧ろ洗うことに勇気を振り絞った。
またいっぱいキスしてもらえばいいんだから!
よし、洗おう!
謎の決意を胸に洗顔開始。
とは言え、アラサーの肌にファンデーション塗りっぱなしは厳しかった。念入りにリベンジを図る。
龍輝からのお家デートの誘いは、想定内でもあり、想定外でもあり。
昨日のブラウニーの残りも持って行ってあげようと思いつつ、後は何を買っていこうかと思案する。
お家デートって言ったら、一緒に映画とかゲームとかかしら? うーん、ちょっと龍輝のイメージじゃないけれど。
なるべく栄養バランスの良いテイクアウトにしたいな……ピコンと思いついたお店へ予約の電話を入れた。
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