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くすぐったそうに笑っていた一華の瞳が、すいっと龍輝の顔の後ろへと吸い寄せられた。
なんだろうと振り返った龍輝は、それがアルバムだということに気づく。
「見る?」
「いいの?」
「いいよ」
それは学生時代のアルバム。青い海の写真。
普段は写真の整理なんかやらない龍輝だったが、海の写真だけは違った。ダイビングのインストラクターをしていた沖縄で、水中カメラで撮りまくった生き物の写真は、解説付きで綺麗に整理して貼り付けある。
エメラルドグリーンの海には、カラフルな魚や大きな貝が無数に息づいている。龍輝が今の会社に勤めるキッカケにもなった海。
「ねえ、あの写真もある?」
「あの写真? あ、無い」
あの写真とは、マッチングアプリのプロフィール写真の事だと気づく。
「残念」
「詐欺だと思った? ちょっと心配だったんだ」
正直に打ち明ければ、一華が眉間にシワを寄せて頷く。
「うん。別人だと思った」
「ごめん」
「でも、あの写真、私のお気に入りなの。イケメン」
「カッコ良かった?」
うんうんと嬉しそうに頷く一華に照れくさくなる。
「一華さんも綺麗だった」
「頑張って撮影したから」
「そうだったんだ。でも、実物に会ったときのほうが、もっと美人だった」
「うふふ、ありがとう」
それって裏を返すと写真写りがいま一歩ってことにもなるんだけど。と心の中で呟いてから、そんな含みを持たせられない龍輝だから、ストレートに信じられると嬉しくなる。
最初から美人って思ってくれてたんだ。嬉しい。
そうだ! おねだりしてみよう。
「ねえ、今一緒に写真撮ろう!」
「そういえば、二人で写真撮ったこと無かったね。でも、俺の部屋ってどうなんだろう?」
「大丈夫。綺麗だよ」
「ま、いっか」
ベッドに二人で腰を下ろして、壁をバックに顔を寄せ合う。
一華の自撮り棒を掲げて「はい! チーズ!」
撮った写真をチェックする。
「龍輝さん、緊張している」
そう言って一華が龍輝の頬をつついた。
「そ、そうだね」
思いがけないスキンシップに、目をパチクリさせている龍輝。
「もう一回、いくよ」
「お、おう」
再度構えて「いくよー! 一足す一は?」
「田んぼの田!」
パシャリと光った結果は、一華の吹き出す顔と龍輝の生真面目な表情。
「なぞなぞになっちゃった」
「あ、そのまま答えれば良かったんだ」
「そうそう、にーって言えば、口角が上がって笑顔になるでしょ」
バツの悪そうな龍輝を見て、また一華が大笑い。
三回目にして、ようやくナチュラルな笑顔の二人の写真が撮れた。
「うん、いい感じ」
「俺も欲しい」
「今送る」
二人で写真を共有してにっこり。
やった! これで燈子に見せられる!
思いっきり惚気ちゃうんだから、とほくそ笑んだ。
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