プロローグ(過去)

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プロローグ(過去)

 大学四年生の夏。  その年は、数十年に一度と言われる猛暑日が続いていた。 「詩葉。大丈夫?なんか元気ないけど……」 「うん。ちょっと夏バテかも。報告会の準備とアルバイトが続いてたし。今日は帰って寝るよ」  私、日向 詩葉(ひなた ことは)は福祉系の四年生大学に通っていた。   大学で仲良くなった親友の相川 真凛(あいかわ まりん)に見送られ、一人暮らしをしているアパートへ帰宅をする。  本当はもっと学内に残って勉強したかったのに。  帰宅をしたら頭痛、さらに腹痛まで感じるようになった。    念のため、熱を測ってみよう。  体温計を取り出し、脇の下に挟む。  ピピっと音が鳴り、数字の確認をした。  37.7度。  どうしよう。一応、内科にでも行こうか。  明後日にはゼミの発表があるから、休めない。  まだ歩けるうちに、通院しよう。  お財布にはたしか、一万円は入っていたはず。  怠い身体に鞭を打ち、近くの内科に向かった。  「脱水もあると思うので。一応、点滴をしましょう。血液検査の結果、問題はなかったので、様子をみてください」  簡易血液検査の値は正常。  とりあえず点滴をしてもらい、解熱剤が処方された。    会計のため受付に行き、診療代を払おうと財布の中からお札を取り出そうとした。  けれど――。 「あれっ?」  予想外のことに思わず、声が漏れる。  お財布に入っていたはずのお金がない。入っていたのは小銭だけだった。 「すみません。お金、足りなくて。近くのコンビニに行ってきてもいいですか?」  自分でも混乱したが、その時は、もともとお金は入っていなかった、だったんだ。  そう思った。  受付で許可をもらい、コンビニのATMでお金を下ろし、再度病院に戻る。 「すみませんでした」  もう一度謝ると 「いえ。気にしないでください。お大事に」  そう受付のスタッフさんが声をかけてくれたから、なんだかホッとした。  薬をもらい、帰宅し、ベッドに横になる。    冷静になって考えた。  大学生にとって、一万円は高額だ。    私の記憶が間違っていたの?  自分の行動を振り返る。  いや、一昨日は絶対お財布に入っていた。ラウンジでご飯を食べて、その時に確認している。  それからお財布はバッグの中に入れていたし。買い物もしていない。  昨日は――。  いや、一昨日の夜から彼氏が泊まりにきてて。  もしかして、あの時!?  疑いたくないけど、そう考えるしかなかった。  一昨日、シャワーを浴び終わった時、いつも置いてある場所じゃないところにバッグがあって。  私、あんなところに置いたっけ?って思った時に<詩葉?どうしたの>に名前を呼ばれた気がする。  彼は二つ年上。だけど、留年してまだ学生だった。 <ううん。なんでもない>  名前を呼ばれた私は、そのまま彼にキスをされて――。    どうしよう、直接聞く?  でも私の勘違いだったらどうしよう。
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