僕の夏休みの終わりに

2/3
前へ
/3ページ
次へ
 千穂は網戸を開けると、手をサッシにかた。 「ね! 一生のお願い! 宿題……」 「写させて、だろ? お前の一生のお願いは毎年だな」  幼馴染の千穂の顔をみて溜息を吐く。  くりくりっとした目とにんまりした口元。  ショートボブの黒髪の、よく見知った女の子。  夏の定番、青のストライプ模様のワンピース。  そして悪びれもせず、小脇に宿題ノートを挟んだまま、網戸をあけて窓から入り込んできた。 「よっこいせ」  すらりとした腕と脚をにゅーんと部屋に差し入れて、窓枠を乗り越える。爪先を畳につけて僕の部屋に無事、侵入完了。  千穂はちゃっかり僕の対面でノートを広げ、座布団に座る。  部屋の真ん中で丸いローテーブルを挟んで向き合う。 「あのな、玄関から入ってこい」 「いや、そういうわけにも。葉月のお母さんに『晩ご飯食べてきな!』って言われちゃうし」  てへへと微笑む千穂。人の家をなんだと思ってやがる。 「宿題を写しに来たのバレるからだろ」 「話が早くて助かります、葉月くん」  僕はやれやれと言いながら宿題を見せてやることにした。  毎年の事とはいえ何とも呆れる。  世話の焼ける幼なじみだ。 「いつもすまないねぇゴホゴホ」 「病弱設定やめろ」  早速ノートに僕の宿題を写しはじめる。 「葉月はすごいねぇ、ほとんど終わってるじゃん」 「当たり前だろ。御盆前に終わらせてあとは遊ぶんだ。そういう約束だったろ……」  僕は千穂の顔を見た。  まるい目玉をきょとんとさせて、小首をかしげる。 「あっ……そうだったっけ?」 「忘れてたのか」  まぁ……仕方ないか。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加