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「先輩、明日の夜シフト入れませんか?」
いつものように前触れなく淡々と明瞭で、それでいて何とも心地よいテナーの音律が携帯越しに聞こえてきた。
「いいよ」
友達もおらず特に用事も無いインドア派間取は、都合良く使われる立場にいつもいる。
「じゃあすんませんが、よろしくお願いします」
ふたりとも最低限のあっさりした会話で要件を済ませると、電話を切る。
その間1分もかからない。
彼は今は同じ学部の二年後輩だから先輩と呼ばれるのは正しいのだが、たまたま応募したバイト先のコンビニで知り合った時の彼は、ひとつ年下の他学部の学生でコンビニでは先輩格だった。
他学部の学生だった時から、整った容姿に陽だまり色のちょっと長めでシャギーを入れたサラッと流れる髪は、広い校内とはいえ人目を引いていた。
屈託のない彼の周りには取り巻きが群がっていて、やっかみ混じりの視線にいつも晒されているように見えた。
鈍感な間取でも気づいた位なので、それが入学して次の年にはお金が稼げるからと医学部を再受験してあっさり合格する天才なので、輪をかけて話題の人物となっていた。
それでも接点はまったく無かったのだが、それこそコンビニの先輩として間取に仕事を一から丁寧に教えてくれる関係になるとこうして突然シフトに空きが出る度、電話連絡が来るようになった。
今時にしては珍しく、メールではなく毎回電話というのも彼独特のスタイルだった。
大概は彼も穴埋めに一緒に入るので、共にいる時間は結構長いように思えたがほとんど喋る事のない二人はただ淡々と仕事をこなしてお疲れと言って去る関係でしかない。
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