夏の終わりに君らは去った

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 翌日、朝起きると昨日と同じようにタケシ兄ちゃんが横で読書をしていた。また一人で朝食をとってからタケシ兄ちゃんに僕は今日やりたいことを伝える。 「川で泳ぎたい!」  予想した通りにタケシ兄ちゃんの顔は曇る。タケシ兄ちゃんが泳げないのはとっくに知っている。タケシ兄ちゃんの唯一の弱点だ。 「何かあったら」 「僕は泳ぎが得意だから大丈夫!」  僕がタケシ兄ちゃんにする悪いこと。それは無理にタケシ兄ちゃんを泳がせることだ。いつも涼しい顔のタケシ兄ちゃんを困らせたい。 「それにタケルもいるから大丈夫だよ」  逆にタケルは泳ぎが大好きだ。僕とタケシ兄ちゃんが川辺にいてタケルが泳ぐのを見ていたのは何度とある。タケシ兄ちゃんが僕を泳がせることは今までなかったけど。 「あの川は流れが速いから……」  タケシ兄ちゃんはどうしても渋る。 「大丈夫だよ。僕、泳ぎ得意だから。何ならタケシ兄ちゃんに教えようか?」  タケシ兄ちゃんは、ふうと息を吐く。 「ちょっとだけだぞ」  やったと心の中でガッツポーズを掲げる。あとはタケシ兄ちゃんを川に引きずり込んで弱みを握ればいい。来年いるかどうかも教えてくれないタケシ兄ちゃんへの罰だ。天罰なんだ。  海パンに着替えて僕らは近くにある川に向かう。タケシ兄ちゃんの顔色は相変わらず暗いけど逆にタケルは元気なくらいだ。 「あははは」  川の中を僕は元気に泳ぎまくり川辺で渋い顔をしているタケシ兄ちゃんに水をかけまくる。 「はしゃぎすぎだよ」 「タケシ兄ちゃん、泳げないからそんなこと言うんでしょ?」  タケルはタケルで泳ぎを楽しんでいる。これでタケシ兄ちゃんを川に引きずり込めたなら最高なんだけど。  僕は向こう岸を求めて泳ぎだす。真ん中あたりは足がつかないけれど、そこさえ越えればもう安心だ。対岸からタケシ兄ちゃんを煽ってやるんだ。 「痛っ!!」  そう感じた瞬間、僕の視界は水中に沈む。しまった。足を吊った。流される!  息を何とか水面で吸おうと顔を水面に向けた瞬間、無意識に口が開いた。口の中に水が流れ込んでくる。 「ゴブッ」  足掻こうとすればするほど流されていくのが分かる。死という一文字が僕の脳裏に過ぎる。目をきつく閉じた。助けて!  流れる僕の身体に何かがぶつかる。柔らかい何かだ。次の瞬間、僕の顔は水面に出る。 「ゴホッ」  勢いよく水を吐き出して僕は悟った。ぶつかった何かはタケルでタケシ兄ちゃんは僕の顎に手を当てて僕を引いている。  タケシ兄ちゃん、泳げたの?
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