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「あのう……郵便クラブって?」
廊下を一緒に進みながら、春乃は間宮先輩に聞いた。
クラブ紹介のパンフレットには、確かなかった気がする。入ってる子のことも聞いたことがない。
「文字通り、郵便をあつかうクラブだよ。パンフレットとかにはのってない、かくされた存在なんだ」
先輩はおちゃめに笑ってみせた。どこかおだやかでやさしい空気をまとった人で、つい、言われるがままについてきてしまった。
「かくされた……?」
「そう。えっと……岸本さんは、クラブは入ってる?」
「いえ、入ってないです」
春乃はふるふると首をふった。
活発で運動神経もいいちなちゃんはバレークラブに入っていて、さそってくれたけど、ことわったのだ。体育も迷惑かけてばかりでゆううつなのに、放課後にもやる自信なんてない。
先輩はメガネの奥の目をきゅっと細めた。
「ちょうどよかった。じゃあ、初めてのクラブだね」
そう言われると、まだ何もわかっていないのに、なんだかいいことみたいな気がしてしまう。
彼は初等部の建物を出て、敷地のさらに奥までなれた足取りで進んでいく。
その道には、春乃もなじみがあった。
木々にかくされるみたいに佇んでいるのは、たくさんの本がある図書館棟だ。
「この中ですか?」
重めの扉を開けて中に入ると、ひんやりとした静かな空間。
大量に並ぶ本のにおいが心地いい。たまに来ると落ち着くから、気に入っている場所の一つだった。
入り口を入ってすぐの階段を上る先輩を追いかける。一気に一番上の三階まで来た。
その、一番奥の、黒いドアの部屋。
たまに借りる本を探して通りがかっても静かだから、物置か何かなのだと思っていた。
「ここが僕らのクラブの部屋なんだ」
ふりかえって春乃を正面から見つめる。
「ここはすっごくいいところだよ。絶対に楽しくなるから」
先輩がドアノブに手をかけ、ひねった。
きい、と小さな金属のまさつ音。
階段を上ってきたのと緊張とで、胸が大きくどきどき鳴った。
「ようこそ、郵便クラブへ」
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