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姿をあらわした室内は、外国のおしゃれなおうちにありそうなソファやテーブルや棚が並んでいて、大量の書類や本が積み重なっていた。
壁に並んだ小さな窓から白い光がさしこんで、なんだかとてもすてきな空間に見える。
その中央のテーブルの上に腰かけている男の子が一人――、手元に開いていた本から顔を上げてこちらを見ると、きっとした目つきで春乃をにらんだ。
「は? なんだよ、こいつ」
いきなり発せられた低い声に、さっきまでとは違う意味で心臓が縮まる。
「えっ!? えっと」
「岸本春乃ちゃん。お前と同じ学年だよ。うちに迎え入れようと思って」
先輩がすかさず間に入る。
「は? 何それ」
彼はよりするどい目になった。
確かに、よく見るとハーフパンツの制服だから、初等部だ。
でも、一学年十二組もあるマンモス校だから、同じクラスになったことがないと、全然知らない子がいたりする。春乃にとっても初めて見た男子だった。
「なんで? こんな大人しくて頼りなさそうなやつ。それに、部員は足りてるだろ」
間宮先輩は「ハイハイ」と彼の言うことをかわし、にっこり笑った。
「じゃあ、春乃ちゃんが一人前になるまで、皇紀、お前が面倒みてよ」
「はあ?」
「もう決定だから」
目の前でどんどん進んでいく会話に、春乃はただおろおろとして先輩を見た。
「あの、まみ……」
その様子を見ていた皇紀が、チッと大きな舌打ちをする。
座っていた机からジャンプするように降りると、つかつかと春乃の前にやってきた。
「お前、やるからには役に立てよ」
じゃないと殺す。
って続きが聞こえそうで、春乃は身をすくめた。
怖すぎるよ……!
あまりの迫力に、ついコクコクとうなずく。皇紀はふんと鼻を鳴らすと、もう一度テーブルの上に座った。
横で間宮先輩がニコニコ笑っている。ここに来るまでの彼の言葉を思い出す。
――ここはすっごくいいところだよ。絶対に楽しくなるから。
その言葉には、なぜかちょっとだけワクワクしたのに。
すでに全然、自信ないよ――…!
「じゃあ、皇紀の許可も出たってことで、改めて説明するね」
「まだ許可してないけどな」
「郵便クラブは、メンバーも、クラブの存在自体も公表されてない、秘密のクラブなんだ」
先輩は華麗に無視して続ける。すっごくやさしそうなイメージだったけど、どうやらそれだけじゃないみたいだ。
「春乃ちゃんは、図書館裏のポスト、知ってる?」
「あっ、はい。七不思議のポスト、ですよね」
皇紀がちらっと見てきて、先輩はくすっと笑った。
「そう。と言っても、他の六こはなんなのか、よくわからないけどね」
ポストは、一度だけ見に行ったことがある。ちょっと古いけど、かわいいデザインだった。普通のポストと違って、筒形で、上に丸い蓋がついていて、正面にはラッパのモチーフがついてるんだ。
「確か、あのポストに手紙を入れると、ちゃんと届くっていう――」
「そう。そして」
一瞬雲がかかって部屋がかげって、またすぐに光がさした。
「その手紙を、宛先の人物にこっそり届ける活動をしているのが、僕たちなんだ」
「じゃあ……七不思議の、正体……!?」
あはは、と先輩が嬉しそうに笑った。
「いいね、春乃ちゃん。目が輝いた」
そう言われて、急にかあっと恥ずかしくなる。先輩はわざとかっこうつけて、
「そう、僕らがその正体なんだ」
とちょっと声を低くした。思わず笑いあう。
「それでね。ほとんどは、ちゃんと宛先が書いてあるものなんだけど……」
先輩は一瞬、視線を落とした。
「たまに、わからないものがあるんだ」
イニシャルとか、無記名とか。
そのままだと、さまよってしまう手紙たち。
「そういうものの調査をして、届ける担当が、皇紀」
先輩は皇紀を指さしたけれど、皇紀は聞いているようなのに、こっちを見なかった。
「春乃ちゃんはそれを手伝ってね」
「あっ、はい!」
「わかったらさっさとやるぞ」
話が終わるやいなや、皇紀は給食のトレイくらいの大きさの箱を持ってきた。
「これが仕分け箱。すぐには届けられないものを見つけたら、部員はここに入れることになってる」
言われてのぞきこむ。そこには何枚かのハガキがあった。
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