*第一話 ひとりぼっちの新クラス

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 姿をあらわした室内は、外国のおしゃれなおうちにありそうなソファやテーブルや棚が並んでいて、大量の書類や本が積み重なっていた。  壁に並んだ小さな窓から白い光がさしこんで、なんだかとてもすてきな空間に見える。  その中央のテーブルの上に腰かけている男の子が一人――、手元に開いていた本から顔を上げてこちらを見ると、きっとした目つきで春乃をにらんだ。 「は? なんだよ、こいつ」  いきなり発せられた低い声に、さっきまでとは違う意味で心臓が縮まる。 「えっ!? えっと」 「岸本春乃ちゃん。お前と同じ学年だよ。うちに迎え入れようと思って」  先輩がすかさず間に入る。 「は? 何それ」  彼はよりするどい目になった。  確かに、よく見るとハーフパンツの制服だから、初等部だ。  でも、一学年十二組もあるマンモス校だから、同じクラスになったことがないと、全然知らない子がいたりする。春乃にとっても初めて見た男子だった。 「なんで? こんな大人しくて頼りなさそうなやつ。それに、部員は足りてるだろ」  間宮先輩は「ハイハイ」と彼の言うことをかわし、にっこり笑った。 「じゃあ、春乃ちゃんが一人前になるまで、皇紀、お前が面倒みてよ」 「はあ?」 「もう決定だから」  目の前でどんどん進んでいく会話に、春乃はただおろおろとして先輩を見た。 「あの、まみ……」  その様子を見ていた皇紀が、チッと大きな舌打ちをする。  座っていた机からジャンプするように降りると、つかつかと春乃の前にやってきた。 「お前、やるからには役に立てよ」  じゃないと殺す。  って続きが聞こえそうで、春乃は身をすくめた。  怖すぎるよ……!  あまりの迫力に、ついコクコクとうなずく。皇紀はふんと鼻を鳴らすと、もう一度テーブルの上に座った。  横で間宮先輩がニコニコ笑っている。ここに来るまでの彼の言葉を思い出す。  ――ここはすっごくいいところだよ。絶対に楽しくなるから。  その言葉には、なぜかちょっとだけワクワクしたのに。  すでに全然、自信ないよ――…! 「じゃあ、皇紀の許可も出たってことで、改めて説明するね」 「まだ許可してないけどな」 「郵便クラブは、メンバーも、クラブの存在自体も公表されてない、秘密のクラブなんだ」  先輩は華麗に無視して続ける。すっごくやさしそうなイメージだったけど、どうやらそれだけじゃないみたいだ。 「春乃ちゃんは、図書館裏のポスト、知ってる?」 「あっ、はい。七不思議のポスト、ですよね」  皇紀がちらっと見てきて、先輩はくすっと笑った。 「そう。と言っても、他の六こはなんなのか、よくわからないけどね」  ポストは、一度だけ見に行ったことがある。ちょっと古いけど、かわいいデザインだった。普通のポストと違って、筒形で、上に丸い蓋がついていて、正面にはラッパのモチーフがついてるんだ。 「確か、あのポストに手紙を入れると、ちゃんと届くっていう――」 「そう。そして」  一瞬雲がかかって部屋がかげって、またすぐに光がさした。 「その手紙を、宛先の人物にこっそり届ける活動をしているのが、僕たちなんだ」 「じゃあ……七不思議の、正体……!?」  あはは、と先輩が嬉しそうに笑った。 「いいね、春乃ちゃん。目が輝いた」  そう言われて、急にかあっと恥ずかしくなる。先輩はわざとかっこうつけて、 「そう、僕らがその正体なんだ」  とちょっと声を低くした。思わず笑いあう。 「それでね。ほとんどは、ちゃんと宛先が書いてあるものなんだけど……」  先輩は一瞬、視線を落とした。 「たまに、わからないものがあるんだ」  イニシャルとか、無記名とか。  そのままだと、さまよってしまう手紙たち。 「そういうものの調査をして、届ける担当が、皇紀」  先輩は皇紀を指さしたけれど、皇紀は聞いているようなのに、こっちを見なかった。 「春乃ちゃんはそれを手伝ってね」 「あっ、はい!」 「わかったらさっさとやるぞ」  話が終わるやいなや、皇紀は給食のトレイくらいの大きさの箱を持ってきた。 「これが仕分け箱。すぐには届けられないものを見つけたら、部員はここに入れることになってる」  言われてのぞきこむ。そこには何枚かのハガキがあった。
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