【終わらない夏祭り】

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 気付けば私は、何もない路地裏に佇んでいた。祭囃子も鬼も少年も、全てが夜闇と静寂に消えている。夢でも見ていた気分……にはならない。少年の声も手の感触もしっかりと残っていた。  あの少年は無事に夏を終えられたのだろうか? 私より随分落ち着いていて賢い少年だ。きっと大丈夫だろう。  その夜の帰り道は不思議と肌寒く、くしゃみが出た。  ――その日から、私の万年真夏体質は嘘みたいに治った。夏服以外持っていなかった為、秋服の購入に出費が痛かったが、お洒落の楽しみに比べたらどうってことない。  そしてあっという間に一週間が経ち……私は再びあの路地裏を訪れていた。手に約束のモンブランを携えて。  少年がどこに居るか分からない以上、ここに置いておくしかないが……それではお供え物のようになって、縁起でもない気がした。  どうしようかと迷う私の背に、誰かが声を掛けてくる。 「君」 「はい? ……あ、部長」  振り返るとそこには、秋の似合う男ナンバーワン上司。テーラードジャケットがやけに決まっていた。気軽に雑談をするような間柄でもなく、気まずさを隠しもしない私に、部長が言う。 「やっぱり君だったのか」 「え?」 「……手術は、成功したよ」  その時私は、初めて部長が笑うのを見た。キツイ印象の狐目がきゅっと細められる。そこにはあの少年の面影があった。  驚くことに、パジャマヒーローのあの少年は、当時小学六年生の部長だったらしい。入院中の部長は夜にこっそり病院を抜け出し、不思議な祭りに迷い込んだ。そして子供と大人の私に出会ったという訳だ。部長は最近になって、ようやくその時のことを思い出したらしい。  私はタイムスリップでもしたのだろうか? いや、あの場所に、時間という概念は無いのだったか。 「無事に帰って来れたんですね」 「君が帰ったのを見届けたら、本当に心残りが無くなったみたいでね。気付いたら病院に戻っていた」 「そうですか。あ! ……あの、これ」 「ん。何だ?」 「約束の、モンブランです」  私はケーキ屋のこじゃれた箱を恭しく掲げる。甘党の彼は先程よりもっと、ニコリとした。  それから近くの公園のベンチに腰掛けて、フォークも無しにモンブランに齧りつく私達。部長はペロリと食べ終え満足そうに「ふう」と息を吐くと、少しの沈黙の後で、言い難そうに切り出した。 「君は、その」 「はい?」  しょ、食事の誘いとかだったらどうしよう。夏が戻って来たみたいに、顔が火照った。しかしそこに続く言葉は、全く予想外のものだった。 「もしかすると、秋の抜け出し方も知っていたりしないか?」 「えっ?」 「実は僕……ハロウィンの祭りで、カボチャ頭に冬を奪われてしまってね」  万年秋男の部長は、涼しい顔の下で色々悩んでいたらしい。 「マジですか」
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