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蒸し暑い昼下がりに、涼しい場所を求めてひんやりとした畳の上に手足を思いっきり伸ばして寝転がった。エアコンは体が冷え切ってしまうため苦手だった。
汗で膝の内側や肘の内側がぬるぬるし、虫に刺されたわけでもないのに全身の肌がむずがゆい。
しかし、この畳の上に寝転がっていると少しそれが和らぐような気がする。夏休みが後半にさしかかったのにもかかわらず、まだ手もつけていない宿題のことを思い出してしまったが、睡魔の方がより強く脳裏まで押し寄せてきた。
体を横にするとうつらうつらとしてきて、足を曲げ背を丸め、そのうち母体の水の中に浮かびながら静かに眠る赤んぼうのような格好になった。
遠くで耳障りな高い声で鳴いている蝉の声が微かに聞こえてきたが、あの蝉は一週間ほどの命らしい。今日がその日で有終の美でも飾ろうとしている可能性もある。
しばらくすると少年が規則正しい寝息をかき出したのは言うまでもない。見るとまだあどけない表情で子犬のようなぼんやりとした寝顔だった。けたたましい蝉の声が子守り歌となった。
どれくらいたったのだろう。畳のい草の香りと、蚊取り線香独特の匂いに鼻をつつかれトシは目覚めた。もう夜になってしまったのか辺りは暗く、家ががらんとしていた。
網戸の外から鈴虫やコオロギの涼しげな鳴き声だけ響いていたが、あまり良い心地はしない。母親のいる気配もしないので、妹を保育園まで迎えに行き、そのまま買い物かどこかへ行ったのかもしれない。とにかく家の中は何の気配もない空っぽな巣となっていた。
トシはゆっくり立ち上がると、目覚めたばかりで少し頭がくらくらし、足もとが覚束ない。ふらふらしながらトイレに向かうと、ふと電話が鳴っているような気がした。
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