後 ・ きみを恋う

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「士郎なのか」 切なく問いかけた桜城の目頭が熱くなる。振り返った桜城は、少しずつ闇に慣れ始めている目で、愛する男を必死に視界へ捉えようとした。両手でその頬を包み、嬉しさで胸が痺れてくるのを感じた。 「本当に、士郎か————」 「ああ」  驚愕に襲われながら桜城はその首に抱き着いた。五十嵐も強く桜城を抱擁する。  会いたかった。会いたくてたまらなかった。  それでも絶対に会えないだろうと諦念し、耐えてきた、長い長い、長すぎる年月。  それを超えて今、五十嵐に会えた。 「会いたかった」 いったん声になって出た言葉が止まらない想いとなって、桜城を突きあげる。永遠に自分はこの男を愛し続けるだろう。 「俺もだ。ずっときみを見ていた。よく頑張ったな、同之慎」 五十嵐からの労りに、涙が噴きあがった。 「…ああ————」  確かに五十嵐を失っても生きた。永遠に続くと思われた、底の抜けたような辛苦の中で頑張った。それを五十嵐も分かってくれて、こうして労りの言葉を伝えにきてくれたことが嬉しい。天にも昇る、まさにそんな気分だった。  五十嵐は桜城を抱えて階段に腰かける。桜城は五十嵐の胸に頬を埋めたまま、夢か現か分からぬこの再会に感動を覚えながら身を預けた。  何度も何度も髪に愛撫を受けると、陽だまりのような明るいぬくもりをゆっくりと注がれているみたいな幸福に包まれる。 「あなたに、こうしてまた会えるなんて」  五十嵐の胸の鼓動までが聞こえてくる。 ——死者の鼓動? そんなものがこの世にあるはずないのに、夢の一言で片づけられないほど、この五十嵐には現実味があった。 「きみに会いたくて、どうしても来てしまったのだ。夕刻、曼殊沙華を見つめたきみはあまりに悲しそうだった」 「見ていたのか」 「ずっときみを見ていた。きみへの想いは変わらない、同之慎」  嬉しくて眩暈を覚えるほどの科白だった。それでも桜城は自嘲した。 「わたしはお爺さんだ。なぜだか今は、昔の姿になっているがな。これはどうしたことか」 真面目な顔で五十嵐が答える。 「いくつになってもきみは綺麗だ。俺もきみの傍にいると、老人になっているときがある」 「そうなのか。不思議だな」  歳をとった五十嵐も見てみたいと思った。五十嵐があんなに早く逝ってしまわなければ、自分たちはもっとお互いを深く知ることができただろう。 「あなたともっと一緒にいたかった」 そう呟いた頬に掌をあてがわれる。 「俺は永遠にきみを恋う。きっと来世も俺たちは出会い、愛しあうだろう」 予言でもあり約束でもある言葉がゆっくりと心の泉に落ちてゆく。 口づけを交わした。息もできないほどお互いを何かで縛って欲しかった。 それともこれもまた、自分が自分に見せている幸せな幻影なのだろうか。そう考えると悲しみで気が狂いそうになる。 「これがただの夢ではなく現実なら、士郎————あなたの世界に、わたしを連れていってくれないか」  桜城の必死な頼みに、五十嵐のまなざしが痛々しいものに変わる。 「もう、わたしは充分に生きた」 「いや、きみはまだ生きなければ。太郎や喜次郎にもっと毛筆を教えてやる必要があろう?」  子どもたちにすらあたたかな、五十嵐らしい科白だったが、桜城の慕情は行き場を失ってしまう。このもどかしい気持ちをどう表現したらいいのかと、桜城は愛しい男の唇を指でなぞった。  五十嵐は桜城のその指にそっと口づけを返す。人差し指の側面に唇を這わされて甘噛みを受ければ、桜城の腰にズクンとした重い痺れが落ちた。  気が遠くなるほど久しぶりの劣情だった。  五十嵐に欲情している自分を感じずにはいられなくて、このまま抱かれたいと強く願った。  しかしこんな奇跡としかいいようのない神秘的な邂逅で、ふしだらな願望を抱いては罰が当たりはしまいか。  そんな桜城の苦悶も知らず、五十嵐は桜城の顎をとると、唇を奪う。  いっそう強く腕にかかえ込まれると苦しい体勢になるのだが、こんなふうに熱く求められればたまらなく嬉しい。舌を絡めて唇を深く咬ませれば、漏れた唾液が桜城の顎を伝う。その淫靡な感触にすら桜城は欲情した。五十嵐のそれも勢いづき始めていた。 「抱いて…抱いてくれないか、士郎」 「ああ…」  五十嵐の唇が桜城に首筋を這う。  着物を巧みにはだけられて肩が露わになり、口づけを落とされた。それから五十嵐の唇は胸の蕾へと————。  とっくに忘れていた敏感な箇所を舐られ、甘噛みされ、責めたてられた。 五十嵐は的確に快楽を与えてくる。その都度、桜城の肉体は跳ね、肌は上気し、喉からは甘く濡れた声が漏れた。  桜城も五十嵐の制服のボタンを外した。シャツも下着もはだけさせた。胸の突起を見つけて貪るように口を当てた。吸い、愛撫し、舌で嬲る。五十嵐の喉が断続的に鳴った。  硬度をあげる五十嵐の股間に桜城は手を遣り、優しく撫でてから陽物を取り出して口に含んだ。自分も痛いくらいに反り返っていた。  質量感のある五十嵐の陽物に口淫を施せば、それだけで感じてしまって腰があらぬ感じで揺れてしまう。  五十嵐の手によって桜城の白く丸みを帯びた尻が曝け出される。陰茎の先からは愛液が漏れていた。  体勢を変えられて口に咥えられれば、熾烈な快感に襲われた。  全身の肌がそそけ立つような強い悦楽。  五十嵐はときに鈴口を剥くようにして、虐げる。その度に陰茎の芯を抜かれるような衝撃がしてたまらない。そんなとき桜城は首から背中までしならせて、切ない悲鳴をあげるのだった。  お互いに口淫を施しあい、昇りつめる。剛健な五十嵐はそれでも達しえず、桜城が先に達した。腰を震わせ、切ない声をたてて、足はあまりの愉悦に無様に笑っていた。  五十嵐が桜城の尻たぶを掴んで秘所を拓く。  むき出しにされたそこを舌で潤された。  聞くに忍びないほどの水音を響かせて、ぬらぬらたっぷりと湿らされ、舌先でくじかれればたまらない。恍惚となった桜城は劣情に身を揉みながら、なおも五十嵐の陽物を貪る。一刻も早くこれで自らを穿って欲しかった。  舌と指とで巧みに秘所をほぐされて、五十嵐を受けいられる状態になってゆくのが自分でも分かる。脚を開ききり、このうえなくいやらしく欲しがってしまっていた。 「くれ…、早く。欲しいんだ、」  脚を持ちあげられて五十嵐が侵入する。  その瞬間、幸せな人生を歩んだと桜城は感じた。  五十嵐と出会い、愛しあえた。こうして今もなお繋がって、至福の時を過ごせている。  様子を見るような抽挿も、五十嵐の本懐をもっと熾烈にぶつけて欲しいと桜城がねだると激しくなった。密着した肌が汗で張りついて溶けあう。それすら幸せだった。  五十嵐が昇りつめるほど響く肌を打ちつけあう音。  何度も果てた。  今夜だけは。  今夜だけはかつてに戻って一晩中奪いあいたい。
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