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「そうだ、鳥取へ行こう!」
突然帰って来たアニキは、長々居座った挙句、適当にそんなことを言い出した。いい加減奥さんと仲直りするために思いついたらしいが、勝手に僕ら=僕と彼女もメンバーに組み込まれていた。
僕はそれどころじゃなかった。そのときの僕は彼女にプロポーズをしようと四苦八苦していた。お洒落なレストランとか、美術館めぐりの後とか、森林浴太陽光線の中でとか……何度も計画してはあれやこれやの失敗に終わっていた。
彼女は計画が狂ってもいつも笑ってくれる。「最初の計画も楽しそうだったけど、こういうのも面白いよね」と。
でも、プロポーズに関しては計画自体を伝えていないから、その落差を知る由もない。
「もうっ、いつも突然なんだから!」と、アニキの奥さんは文句言いながらも嬉しそうにやって来た。喧嘩の原因が何だかは知らないが(アニキの奥さんは基本何が起きても動じないけど、逸らすべからずの柱を一本持っている。だからそこを外すと大爆発する)、こういったアイディアには乗ってくる。アニキの仲直りの誘いだとわかっているのだ。そして初顔合わせの彼女ともサラッと仲良くなれる素敵な女性だ。
「うふふ、あの砂丘でプロポーズされたのよね、あたし」
奥さんが僕の耳元で囁いた。
ふうん……アニキ、僕の数回に渡る計画倒れプロポーズに気づいてたのか……?
まあ自分のことしか考えてやしないただの思いつきの可能性は90%以上。
よ、よし。どっちにしろチャンスだ。ありがたく乗っからせてもらおう――
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