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プロローグ
タブレットの画面に映る彼は、まるでヒーローのようだった。
何度ピンチが訪れても、その真っすぐな瞳は鋭く光り輝いている。
諦めることなく、ただ勝利を目指して――。
私はいつの間にか、その試合に魅入っていた。
祈るようにして、彼の勝利を願う。
『――よし! 危なかったけれど、どうにか勝てました!』
彼の勝利が決まった瞬間、動画共有サイトのコメント欄には、たくさんのお祝いの言葉が書き込まれていく。
それもそうだろう。ライブ配信には、約3000人もの視聴者がいるのだから。
サスケくんは視線をゲームの画面から外すと、カメラの方を向いた。
まるで私のことを見ているみたい。さっきまでとは違う胸の高鳴りを感じる。
『みんな、今日も応援してくれてありがとう!』
彼……百地サスケくんは、小学生の間で今話題になっているイケメンゲーム配信者で、日本では数えるほどしかいない小学生プロゲーマー。
そして、小学六年生の春から、私のクラスに入学してきた転校生でもある。
「こんな有名な人が同じクラスにいるなんて、信じられない」
私は独り言を呟いて、ふと部屋に置いてある鏡を見た。
重たい三つ編み、レンズの厚いメガネ、典型的な地味子な私。
同じ小学生で同じクラスなのに、私とは全然違う。
別の世界にいる、王子様みたいだ。
ふと、サスケくんがプレイしていたゲームについて調べてみる。
「ホーリー・ファンタジア、か……」
ホーリー・ファンタジアは天界に送られた様々な世界のヒーローが戦う格闘ゲーム。
ただの格闘ゲームというわけではなく、ステージの上から相手を落とすと勝利になるという、ルールも見た目もわかりやすい大人気ゲームらしい。なるほど。初めてこのゲームを知った私でも熱中して試合を観ちゃったくらいだもん。人気なのも頷ける。
ふぅ、と一呼吸置いて、私はタブレットの電源を切る。
それなのに、さっき観ていたサスケくんの試合がずっと目に焼き付いて離れない。
楽しそうなのに真剣で、画面越しでも熱気が伝わってくるようだった。
あんな表情で熱中できることなんて、私にはない。
将来の夢も趣味もない。おまけに友達だっていない。
彼が羨ましいのか、嫉妬しているのかはわからない。
でも私には、その試合のひとつひとつが、キラキラと輝いて見えた。
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