肆の章 以蔵

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 堺の旅館に戻った後、僕は改めて岡田以蔵について聞いた。 「龍馬にとって――岡田以蔵という人物はどういう人だったんだ」 「以蔵は――人殺しじゃき。だから、幕府から悪人という罪を着せられて死んだ。わしは――以蔵を見殺しにしてしまったぜよ」 「そんな事はないと思います。以蔵さんには以蔵さんの人生があって、龍馬さんには龍馬さんの人生があった。ただ――それだけじゃないですか」 「わしは、土佐勤皇党が壊滅したのをこの目で見ているき。その点に関しては――わしの責任ぜよ」  矢張り、龍馬は岡田以蔵に対して未練があったのか。だとすれば――その怨念が黄金髑髏という形で凝ったのも分かるような気がする。  翌日。僕は堺から一気に京都へと戻った。近江屋に向かうと――りんさんが待っていた。 「その様子だと、取材は成功したようですわね」 「その通りです。でも――新たな謎も浮上しました。どういう訳か、龍馬さんの魂は――人を殺めないんです」 「どうしてなんでしょうか?」 「これは仮説ですけど、確かに――土佐勤皇党は暴力によって幕府を変えようとしました。その証拠が『人斬り以蔵』だと思っています。でも、此の世に顕現した龍馬さんはどういう訳か暴漢から襲われそうになっても、暴漢を殺さないんです。多分、以蔵さんの件で――人を殺めたところで誰も得しないということに気付いたんでしょう」 「なるほど。これは――なおさら龍馬さんと以蔵さんの関係性について調べてみる必要がありそうですわね」 「そうですね。――京都から高知って、何日ぐらいで辿り着くんでしょうか?」 「神戸から船に乗って――1日ぐらいですかね。定期便も出ているはずですよ?」 「ありがとう。早速――明日、高知に向かいます。そこで何かが分かるかもしれないですからね」  こうして、僕は――高知へと足を踏み入れることになった。
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