伍の章 高知へ

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伍の章 高知へ

 神戸港から船に乗って、僕は高知を目指すことにした。船旅の中で、僕は色々な考え事をしていた。高知で龍馬と以蔵の関係性に対する証拠は得られるのか。あの黄金髑髏の主は、本当に以蔵なのか。そして――高知という地で何が待ち受けているのか。窓の外は、海しか見えない。龍馬は脱藩に際して伊予から江戸を目指したと言うが――当時は船舶も発達してなかっただろうから、その旅路は大変なものだったのだろう。僕はそう思った。  やがて、夜が訪れる。相変わらず――窓の外は海ばかりだ。日本という国は、こんなに小さくて、こんなに狭いのか。周りが海しかないから――200年という長きに渡る鎖国が実現したのだろうか。もちろん、鎖国している間は安泰の世だったと言われているが、それは徳川幕府という強大な勢力があったからなのだろう。僕が生まれる遥か前、日本はあちこちで戦をしていたという。特に織田信長と豊臣秀吉と徳川家康の3人が覇権を争っていたが、その結果――豊臣秀吉が天下を獲ったと言われている。しかし、豊臣秀吉は関ヶ原の合戦で急激に勢力を落として――大坂夏の陣で壊滅した。その時に勝ちどきを上げたのが、徳川家康だったのだ。  僕は薩摩の出なので――当然「島津家」という勢力が強かった。けれども、島津義弘(しまづよしあき)は徳川家康と戦って負けた。その時の敗走はあまりにも有名だが――今はそんな事を考えている場合ではない。龍馬についての取材を現地で行わなければ。  乗船から1日経っただろうか。船は高知港へと辿り着いた。高知港では、威勢のいい漁師の声が聞こえる。恐らく、名産品である鰹の漁だろうか。お龍さんやりんさんから教えてもらった情報を元に、僕は龍馬の生家へと向かう。坂本家というのは、商人ながら帯刀が許されていたらしい。だから――彼は強大な力を付けることが出来たのだろうか。  坂本家の門を叩く。中から――女性の声がした。 「あら、私の家に何の用でしょうか」  女性が、門をくぐって此方に来る。なんというか――気が強そうで、男勝りという印象を覚えた。 「僕は――東京の新聞記者です。坂本龍馬についての取材がしたくて此方まで伺いました。あなたが、坂本乙女(さかもとおとめ)で間違いないですね?」  女性ははきはきとした声で答えた。 「はい、確かに私は坂本乙女です。龍馬の姉といえば――お分かりですよね? それにしても、新聞記者ですか。龍馬がいたら喜びますけどねぇ……」 「そうですよね。それで――龍馬という人物がどういう人物だったのかという記事を書くことになって、僕ははるばる東京から来ました」 「それはご苦労さま。まあ、とりあえず上がって頂戴」  僕は、乙女さんから詳しい話を聞くことにした。
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