伍の章 高知へ

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 色々な目線から龍馬を調べるに当たって――僕は漸く「真言立川流」について詳しく調べることにした。真言立川流は、男女が性的な関係で交わることによって悟りを開き、その時に「髑髏本尊」と呼ばれるものを作り上げるという密教だったな。もしかしたら――高知という地にも、真言立川流の信者は少なからずいるのだろうか。いや、いる訳がないか。真言立川流自体は――忘れられた密教だ。今更――復興させる理由なんてある訳がないだろう。いたとしたら――政府の転覆を狙っている可能性もある。いくら大政奉還で天皇が東京へお戻りになったところで、それを善く思わない人間もいるはずだ。ならば――宗教から政府を転覆させるつもりだろう。今の日本は――一応、信仰に対する自由は保証されている。かつてのキリシタン弾圧から時代は変わったのだ。しかし、事実上神道と仏教の信仰のみ許されているのも事実だ。真言立川流は密教だから――邪教に当たる。  そういえば――真言立川流は荼枳尼天(だきにてん)を信仰していたな。荼枳尼天といえば――狐か。そして、僕の肉体が龍馬に乗っ取られるのも――狐憑きのようなものだろうか。まさかとは思うが――この近くに稲荷(いなり)神社はあるのだろうか? 僕は、坂本家の周辺を少し散歩することにした。  坂本家から割と近い場所に、お宮さんが存在している。――稲荷神社か。これは、荼枳尼天との関係性を調査すべきだな。 「あの――すみません、ここは稲荷神社で間違いないでしょうか?」  神主さんが、僕の質問に答えた。 「確かに、ここは稲荷神社だが――それがどうしたんだ?」 「いえ、なんでもありません。少し気になっただけです」 「そうか。だったらいいのだが」  確かに――お宮さんには狐が祀られている。荼枳尼天で間違いないだろう。荼枳尼天は――玉藻前(たまものまえ)が変化したものであると考えられている。ならば、ここは――真言立川流が関わっているのか。そんな事を考えていると――突然黄金髑髏が光りだした。黄金髑髏は、今まで見たことない光を放っている。なんだか不気味だ。  僕は、僕の中にいる龍馬へ話しかけた。 「龍馬――髑髏が光っているな」  龍馬は――僕の質問に対して答える。なんだか――生前の龍馬を見ているようだ。 「そうじゃのう。わしも――ここまでの眩さは見たことがないぜよ」 「矢っ張り――以蔵さんは真言立川流の信者だったのだろうか」 「それは――分からんぜよ。けんど、以蔵がそういう信仰を持っていたのは間違いないじゃき」  そうなると――矢張り、この黄金髑髏は以蔵の怨念が凝ったものなのか。そんな事を考えていると――突然、背後から刀を抜く音がした。 「わしを解放するとは――おまんも好事家(こうずか)じゃき」 「い、以蔵さん!?」 「諭一郎、いかんぜよ! 此奴は以蔵なんかじゃないき!」 「どういうことだ」 「此奴は、以蔵の形をした――悪霊じゃき」 「つまり、以蔵さんは成仏出来ていないのか」 「そうじゃ。此奴を成仏せん限り――以蔵は報われんぜよ」 「それじゃあ――倒すしかないのか」 「そうぜよ。諭一郎――覚悟は出来とるか?」 「もちろんだ」  僕は、決意した。――以蔵さんを、この手で成仏してやる。
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