陸の章 悪霊

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 翌日。僕は、船に乗って東京へと帰ることにした。港では――乙女さんが手を振っている。 「私は、いつでもあなたをお待ちしておりますよ!」  僕も、手を振った。もしかしたら、また高知に来るかもしれない。その時は――いつでも乙女さんの世話になるつもりだ。  相変わらず――横浜までの船旅は長い。僕は――部屋の中でありのままに起こったことを手帖に書いていく。どうせ、僕の記事は三文記事にもならないだろう。しかし、僕の中で真言立川流というのが引っかかる。靖さんの話によると――真言立川流は徳川の世に滅びたらしい。淫らな行為を介して黄金髑髏を作り上げるというのは、邪教そのものだ。滅びて当然か。  色々と考えをまとめているうちに、眠くなってきた。一旦寝ようか。  ――夢を見た。どういう訳か、僕は儀式を行っている集団の長を務めていた。その集団は、「死人を此の世に降臨させる」という儀式を行っていた。複数人の女性が、虚ろな目で譫言(うわごと)を言っている。恐らく、死人の霊が取り憑いているのだろう。  やがて、僕にも死人の霊が取り憑いた。 「おまんは――口寄せの能力があるき。わしを此の世に顕現させたのも、おまんの力があってこそぜよ」  この声は――龍馬さんか。どうやら、僕は坂本龍馬と夢を介して繋がったようだ。 「さっきから気になっていたんですけど、僕は本当に『口寄せ』の後継者でしょうか? 色々と調べたところ、『口寄せ』を行うのは盲目の女性が多いと言われています。しかし、僕は――紛れもなく男性です。それに、目も見えています。これは、どういうことなんでしょうか?」 「おまん、薩摩の出じゃったな」 「確かに、そうですけど――何か関係があるんでしょうか?」 「薩摩の孤島に――そういう家系があるぜよ。わしも、その家系の元へと向かったことがあるき」 「孤島といえば、奄美(あまみ)ですか」 「そうじゃき。おまん――奄美の巫女の家系じゃなかろうか」  龍馬の言葉で、僕はハッとした。もしかしたら――増澤家はそういう巫女の家系なのかもしれない。そうやって考えているうちに――目が醒めた。
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