4人が本棚に入れています
本棚に追加
/67ページ
やがて、横浜からの船旅を経て僕は京都に辿り着いた。京の都は、矢張り荒れていた。当然か、僕が京の都を滅茶苦茶にしたようなものだ。直接手を下した訳じゃないのだけれど――薩長軍が攻め込んでいった以上、僕が責任を背負うべきだろう。一応、薩摩弁は隠しているのだが――体格だけで僕を「薩摩の人間」であると見抜く人間もいるらしい。
「この人殺しッ!」
僕は――子供から石を投げられた。僕が殺した訳じゃないに、どうして責められるんだろうか。僕にはそれが分からなかった。
近江屋の前では――赤い着物を着た女性が待っていた。僕は洋装を着ているので、女性は僕のことが珍しいようだ。
「あなたが、前澤諭一郎さまですね。私の名前は――りんと申します」
「りんさんですか。いい名前ですね」
「あら、おだてるのがお上手ですね。私、なんだかあなたに惚れてしまいそうです」
「まあ――そんな事は置いておいて、坂本龍馬が斬殺された場所に案内してほしい」
「分かっていますよ。東都日日新聞の編集長さんから話は聞いています」
こうして、僕は坂本龍馬が暗殺された場所へと案内されることになった。
暗殺された場所は――2階の部屋だった。りんさんの話によると、坂本龍馬は軍鶏鍋を食べている途中に何者かに襲撃されて命を落としたとのことだった。そして、僕は改めてりんさんに話をすることにした。
「それで――ある『モノ』とはどれなんだ」
「そうですね――私が保管しておりますわ」
「早速だけど、見せてもらえないか」
「良いですよ」
件の「モノ」は――黄金に輝く髑髏だった。坂本龍馬が殺害された時に、現場に残されていたらしい。
「この髑髏――曼荼羅が書いてあるな」
「善くお気づきで。あまりにも不気味なので――ずっと保管しておりましたの」
僕は、持ってきた紙に黄金髑髏の絵を書いていく。もちろん、曼荼羅まで書いていく。一体、この黄金髑髏は何を意味しているのだろうか? そんな事を考えながら、僕はりんさんを取材した。
取材していくうちに、色々と分かったことがある。坂本龍馬は京都見廻組という組織に襲撃されて、そのまま命を絶ったとされていた。しかし――厳密に襲撃した人物は分かっていないらしい。襲撃されたのは、坂本龍馬の他に中岡慎太郎と山田藤吉も含まれていた。当然、3人共その場で命を落としている。その時に――この黄金髑髏はこぼれ落ちたのか。僕はそう思った。
「ところで、りんさんはこの黄金髑髏について見覚えがありませんか?」
「全くもってありませんわ。でも――黄金髑髏を法具として使う宗教は存じております」
「それ、詳しく教えてもらえないでしょうか?」
「良いですわよ。黄金髑髏を使う宗教――それは『真言立川流』と言うそうです。もちろん、明治の世の中では邪教として知られていますわ」
「どうして邪教なんでしょうか」
「こんな事を言うのはあまりにも下品ですが――男女が交わることに悟りを開くというのが真言立川流の教義だそうです。もちろん、私はこんなはしたない事をしたくはありませんわ」
「なるほど。そういえば――坂本龍馬には『お龍』という妻がいたそうですね」
「そうですわ。寺田屋で騒動があった時に――お龍さんは真っ先に龍馬さんの元へと駆け付けましたわ。それだけ、あの夫婦は仲が良かったとされていますわ」
「もし、真言立川流が事実だとしたら――坂本龍馬とお龍さんはこの黄金髑髏を営みの元で完成させたのか」
「そんな事、考えたくもありませんわ。それはともかく、この黄金髑髏は諭一郎さまがお持ちになってください」
「こんな貴重なもの――いいんですか?」
「良いですわ。それで良い記事が書けるのでしたら――私は大歓迎ですわ」
「分かりました。確かに受け取りました」
それにしても――この黄金髑髏は禍々しい気を放っているな。なんだか呪われそうだ。そう思いつつ、僕は手配していた旅館へと向かった。案内された広間の中で――僕は記事を書いていく。果たして、この記事は民衆に読まれるのだろうか。そう思いながら、僕は黄金髑髏をじっと見つめていた。
最初のコメントを投稿しよう!