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刀と刀がぶつかる。相手が僧侶といえども、矢張り太刀筋はそこそこ強い。しかし、僕は下級武士といえども武士の出だ。実力は此方の方が上だろう。
「お前、中々強いな」
「あなたは僧侶かもしれませんが、僕は一応これでも下級武士ですから――ある程度の剣技は学んでいるんですよ」
「でも、お前は1人だ。数なら此方の方が上だッ!」
その瞬間――無数の僧侶が僕をめがけて駆け寄ってきた。――拙い! 囲まれた!
「囲んだ以上、俺たちの方が上だな。かかれぇ!」
このままだと、僕はやられてしまう。やられた先に待っているのは――「死」だ。こんなところで、命なんて落としたくない。その時――心臓が熱くなった。鼓動が、強く脈を打っている。僕はその場で藻掻き苦しむように倒れた。――一体、僕の躰で何が起こっているんだ!
「くっ……」
「そうか、お前はその程度か。なら――此方がお前の命を奪うまでだな!」
息が苦しい。脈が早い。まるで――疫病に魘されるようだ。僕は、このまま死んでしまうのか。
「うっ――ぐ、ぐあああああああああああああああッ!」
「ど、どうした?」
「――おまん、邪教の教祖かえ? なら、わしがこの手でおまんの命を奪うぜよ!」
「お、お前は――坂本龍馬!?」
「ああ、確かにわしは坂本龍馬ぜよ。わしは――とある人間の肉体を借りて生き返ったき。要するに――わしは屍人じゃき」
確かに、この肉体は坂本龍馬のものだ。――僕は、坂本龍馬として転生したのか。増澤諭一郎という人間が死んだ代わりに、坂本龍馬という人間が生き返った。ただし、坂本龍馬は屍人として生き返っている。この肉体がいつまで持つかは分からない。
「屍人なら――その首を斬ればいいのか。死ねェ!」
「甘っちょろいぜよ。わしをなんじゃと思っとるき」
「ぐ、ぐあっ!」
僕は、自分の意志で僧侶たちの背中を袈裟斬りにした。紅い血が――雨のように降り注いでいく。これが、北辰一刀流の極意だろうか。僧侶たちは、その場で息絶えた。
「今のわしに、敵なんかいないぜよ。わしは――政府の転覆を狙う輩をこの場で斬り殺すき」
騒ぎを聞きつけたのか――斎藤一が駆け付けてきた。
「龍馬じゃねぇか! お前、死んだと聞いていたが――どういうことなんだ?」
「一か。どうやら――わしは生き返ったようじゃ。けんど、今の一は敵じゃないき」
「その言葉、信じていいんだよな」
「もちろんぜよ。わしは――おまんに協力してもらいたかったぜよ。わしの肉体の記憶は――諭一郎と共有しているき」
「諭一郎が死んで――龍馬が生き返った。そういうことか」
「おまんの言葉を借りると、そうなるぜよ」
「それじゃあ――俺の依頼を受けてくれ」
「分かってるき。わしが、おまんの用心棒になっちゃる」
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