弐の章 怨念

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 旅館の仲居さんが「夕餉(ゆうげ)の準備が出来た」と言ったので――僕は部屋の下にある土間へと向かった。最近は神戸の方から珍しい食材が入ってくるらしく――夕餉も珍しい食材が使われていた。正直、牛鍋も飽きてきた頃合いだったので――僕は白身魚の煮付けを頂くことにした。それにしても――この煮付け、なんだか酸っぱいな。柑橘系の味が、疲れた身体に染み渡る。僕は女将さんに対して夕餉で使われている食材を聞くことにした。 「これは一体何でしょうか? 魚の煮付けにしてはやけに洒落ているような気がします」 「それは『むにえる』と呼ばれるものです。仏国(フランス)における魚の煮付けのようなものでして、味付けに檸檬(レモン)を使っているんです」 「なるほど。こういうのも悪くはないな」  どうやら、酸っぱいものの正体は檸檬だったらしい。女将さんの話によると、檸檬は神戸から輸入されたものだった。東京でも、横浜から輸入された珍しい食材が出回ることは多いが――矢張り、神戸には敵わない。そんな事を考えつつも、僕は「むにえる」を口にしていた。  それから、僕は湯に浸かった。風呂から上がって――再び記事を書き始めた。それにしても――この記事は長い記事になりそうだな。どうせなら、いくつかに分けて書くか。僕は、一旦書き終わった記事を東京へ送ることにした。郵便というモノが出来てから――そういうやり取りも便利になった。この国は「文明開化」が進んでいるというが――それらは龍馬がいたからこそ進められたのだろうか? そんな事を考えつつ――僕は再び坂本龍馬についての取材を進めることにした。
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