参の章 口寄せ

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 僕は、戊辰戦争の事を振り返る。確かに――あの戦いは「無駄」でしかなかったと思う。幕府軍は既に力を持っていなかったのに、今更戦を起こしても碌な結果にならない。それは――坂本龍馬という人物が外国から多数の近代的な兵器を輸入していたからというのもあるけど――僕は幕府の考えが「古い」と思っていたのだ。浦賀の地に黒船が来航してからというもの、幕府は急激に力を落としていった。200年続いた徳川幕府に終止符が打たれたのも――黒船による影響が大きい。故に、薩摩藩と長州藩の間で薩長同盟が結ばれたときは「これからの政府は僕たちが担っていくのか」と思ったぐらいだ。まあ――結局、僕は新聞記者として東京で働く事になったのだけれど。  もちろん、薩長同盟に関して坂本龍馬が関わっていたことも知っている。彼がいなければ――今の日本政府はなかっただろう。大政奉還を機に、新政府というものが設立されて――薩摩藩の藩士がその新政府へと関わるようになったのは言うまでもない。しかし――それを善く思わない人間もいるようで、明治元年から数年にかけて、日本という国は混乱していたのだ。各地で内紛が起きたのは言うまでもなく、旧幕府軍直属の組織である新選組は、蝦夷の五稜郭で籠城して――そのまま果てた。そう言えば、龍馬は土方歳三(ひじかたとしぞう)に会ったことがあるのだろうか? 彼が京都に居留している時期が長かった事を考えると――面識があっても良さそうだ。 「龍馬さんは――土方歳三という人物を知っていますか? 新選組の副長で、『鬼』として知られていたらしいです」 「もちろん、知っているき。わしは――彼奴に殺されかけたぜよ」 「矢っ張り、そうなんですか」 「そうじゃき。京にいる以上、そういう人間に対して目を付けられるのは当たり前じゃき。もっとも――新選組はわしよりも、以蔵の奴を恐れていたらしいけんどな」  人斬り以蔵――岡田以蔵(おかだいぞう)か。土佐藩士で、土佐勤皇党(とさきんのうとう)天誅(てんちゅう)を繰り返していたと聞いた。龍馬とは――親友に当たるのか。 「以蔵は――わしにとって大事な人間じゃき。以蔵がおらんかったら、わしは此の世を変えることができんかったぜよ」 「もしかして、以蔵さんに対して未練でもあるんでしょうか?」 「別に――そんなものはないき」 「以蔵さんは――打首のうえにそのまま殺された。――もしかして、あの黄金髑髏は以蔵さんのものなのか?」 「それはどうかのう。わしにもわからんぜよ」  仮に――黄金髑髏が岡田以蔵の頭蓋骨だとしたら、彼の怨念が坂本龍馬を此の世に顕現させたのだろうか? だとすれば――岡田以蔵という人物を成仏させないと、僕の肉体は――永遠に坂本龍馬のものになってしまう。  僕は――岡田以蔵の行方を改めて調べることにした。
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