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「無理をするなと言ったのに……ミランダ……」
誰かがそばで手を握ってくれている。大きくてあったかい手。そうそう、熱が出た時は必ずこうして、握りしめてくれる手がありましたわね。この手は確か……
「アルファ様……?」
「気がついたか?」
いつの間にか私はベットで寝かされていました。横では心配そうにアルファ様が私を覗き込んでいます。
「私は……」
「また熱を出して倒れたんだ。あれほど、無理をしないようにと言ったのに……」
はあと、大きくため息をつかれてしまいました。
「それは、申し訳ありませんでした……でも、なぜ、アルファ様がいるのです?」
いつもは、お仕事で帰っていらっしゃらないのに。
「早く帰ると言っただろう?君の様子がおかしかったから……」
そうなのね。アルファ様が心配して帰ってきてくれた。あら、変ね。涙が出そうだわ。熱のせいかしら?
「そうですか。ありがとうございます。でも、アルファ様、なんでこんなにお話ししてくださるのですか?いつもは無口ですのに」
「それは……」
アルファ様が口をもごもごさせ、下唇を軽く噛みました。
あ、照れてるんだわ。この人、そういえば、こんな癖があったわね。
「手紙を書いているうちに、その……君とちゃんと話がしたくなった。前は、君を前にすると何を話せばいいか分からなかった」
アルファ様が神妙な顔をして、話を続けます。
「君は乳母も頼らず一人で息子を育ててきた。そのせいで、たびたび熱を出して……私は私で仕事が忙しく、家族の時間を持てなかった。話す機会をなくすうちに、君と何を話せばいいのかわからなくなった。特に息子が出てしまった後はなおさら……」
そうなの? そういえば、息子は私が一人で育ててきたような……? 幼少期の頃は、私そっくりで、やんちゃなのに、体が弱い息子に手がかかりっきりで、アルファ様と、話すらできなかったわね。
たまに話をすることがあっても、息子のことばかり。そうだわ……。息子が出て行ってからね、この人が余計に無口になったのは。
「すまなかった、ミランダ。今さらだが、許してほしい……」
なによ。今さら謝ったって、謝ったって……私は……
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