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「にっしなさんっ」
はっ?速いな。
“にっし”が階段を下り始めた彼女に届くと、もう彼女は踊り場にいて、くるりと見えなくなった姿を追うように“なさん”と続けたが、彼女はすでに階段を下りきっていた。
「西名さーん」
俺の声に立ち止まるはずの彼女は校舎を出て、他の女子が立ち止まったり振り向いたりする。
タッタと数歩駆けると
「西名さん、待って」
彼女の隣から顔を覗いた。
「何?」
本当に“何?”っていう顔過ぎてちょっと笑いそうになった俺が
「俺の名前、分かる?」
と聞くと
「うん」
最短の返事と共に彼女が再び足を進め始めた。
「俺、誰?」
「…どうしたの?記憶喪失?」
「あはは…俺が認識されてるか確認」
「ちょっと面倒だね。三井君が笑っただけでキャッキャ聞こえるもん」
「面倒だね」
「そうじゃないよ。その三井君がアタシに話し掛けてる状況が面倒ってこと」
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