反撃します

1/1
前へ
/7ページ
次へ

反撃します

わたくしは一つ大きくため息をついてから、皆が見えるように天井に氷魔法で薄いスクリーンを作り出し、そこに映像を映し出すと、歓声がどっと沸いた。 そもそも、わたくしが聖魔法以外のものを使える事を知らない者たちは氷魔法が使える事に驚き、さらにこのような応用ができることにも興味があるようだ。 そして、そこに映し出された映像を食い入るように見ている。 反応を見るに、この中の人間は7割ほどは義妹の魅了を受けているようだ。 映像では自分で勝手に噴水に飛び込んだ義妹が「お姉さまひどーい」と泣いている。さらに、勝手に後ろで転んで「私が殿下に愛されているからってひどすぎます」と叫んでいる。 さすがに、ここはフロアが失笑に埋め尽くされ、上座でまとまっているおバカ達は恥ずかしそうにしている。 ぶどうジュースを自分でかけて「おねえさま嫉妬はおやめくださーい」などと言っている映像では大爆笑が起こった。 「こ、こんなものはお前が作った作り話だろう。いくら嫉妬したからと言って自分の妹を辱めるつもりか」 なーんてまだのたまってますが、先に喧嘩を仕掛けわたくしを貶めようとしたのはおバカ殿下あなたです。 わたくしは指を弾いてスクリーンを消しました。 「一つ、お伝えしておきます。わたくしおバカ・・・殿下にはまったくもって興味がございませんので、嫉妬という感情はないのですよ」 おバカ殿下は一歩後ずさりながらも 「お、お前は俺を好きだと言っていただろう」 いったいいつの話をしているのだか・・・ 「そうですわね、おバ・・殿下と婚約をしたのはまだお母さまが生きていらしたころで、その時はたしかおバ・・殿下を好いておりました、が、お母さまが亡くなるとすぐにわたくしと1歳違いの娘を連れた愛人をホワイトカラント家に連れてきたゲス・・・父を心底気持ち悪く思いました。そして、その娘であるマリナ嬢と浮気をし始めたバ・・殿下も心底気持ち悪かったです。ゲ・・父さまはずーっと不倫していてお母さまの毒殺もゲ・・父さまのしわさだとわかってます。お母さまが亡くなったときに消えたゲ・・父さまの愛人のメイドにやらせたんですよね」 ここで一度、ざわざわと会場は騒然となる。 ゲス父は「しらん」「ちがう」「ばかな」などと烏の方がもっと話せるような言葉をはいている横で、お義母さまが愛人ですってええええ!とズレたところでわめいておりますが、お義母さまもお母さまの毒殺に一枚かんでおりますよね。 「ですから、わたくし不倫や浮気をするようなゲスは受け入れませんので、おバ・・殿下への気持ちも急降下しまして、むしろ気持ち悪い虫けら程度にしか思っておりませんでしたからマリナ嬢に嫉妬なんてありえないのですよ」 おバ・・殿下は口をパクパクとまるで魚が餌を欲しがっているようで ほんと気持ち悪い 「あと、お父様にお伝えすることがございます」 「な、なんだ」 「ホワイトカラント公爵家のことでございますが、公爵はお母さまでした」 「そうだ、だからあいつが死んだから俺が公爵を継いだ」 ああ、やっぱりわかっていなかったのですね。 「お父様はあくまでもホワイトカラント公爵代理で、継承者はわたくしです」 「そんなバカな話があるか」と取り乱しながら怒鳴り散らすところはいくら三男でもグミ伯爵家出身の貴族とは思えません。 「国王陛下はわたくしの力が国に必要だということで、王太子の婚約者として欲しいとおっしゃってましたが、お母さまが反対をしておりました。どうしてもという国王陛下からの話に断る事ができずに、おバ・・殿下の婚約者になるときに契約を交わしました。ホワイトカラント公爵継承者はあくまでもわたくしでというよりもホワイトカラントは聖魔法が扱える”聖女”が公爵位を継ぐことになっております。ですから、本来ならわたくしが婿を取って公爵を継ぐはずでしたが王太子妃ひいては王妃となるための条件としておバ・・殿下との間に生まれた聖女の力を持った子が次のホワイトカラント公爵になること、もしくは、何かのことでおバ・・殿下との婚約もしくは婚姻関係が無くなった場合はわたくし自身がホワイトカラント公爵を継ぎ、希望すれば領地を公国とすることをゆるすという内容です」 「うそだあああああああああああ」 ゲス父が叫んでます。まぁ、おっぱいボヨンボヨンのお義母さまとずっと不倫をしてホワイトカラントの金を使って楽しんできたんですから、この後はホワイトカラントの名も金もありませんが、二人で楽しく享楽に耽るとよろしいでしょう。 ・・・あっ、でもお父様は毒殺の罪を償わないといけないですよね。 お義母さまも加担しておりますよね。あの毒はお義母さまのご実家で作られているものですものね。 お二人で仲良く流刑地で楽しんでください。 「そういうことですので、ある意味おバ・・殿下には感謝しております。わたくしはこの地で当たり前のように能力を搾取されていく日々に疲れていました」 この国の人間は、癒し魔法を掛けろ掛けろと言い、治れば当たり前だと感謝の言葉すら無かった。 別に何かが欲しいわけではないのですが、聖女も人間なのです。ありがとうの一言だけで頑張る気力になりました。 しかも、結界に関してもおバカ殿下はありもしない妄想だとわたくしをバカにしておりました。 ざわつく場内に響くように風に声を乗せる 「わたくしエミリア ホワイトカラントはこれより公爵を継ぎ、ホワイトカラントの領地は公国とする」 一瞬にして会場内が静まり返ったところに 「聖女エミリア」 と、名を呼ぶものを見ると息を切らせながらラズベリー侯爵を伴った国王陛下が立っていた。 国王陛下に向かい美しいカーテシーを行いながらゆっくりと下降して床に足をつけた。 国王陛下が現れた瞬間、おバカ軍団はおバ・・殿下とマリナを残して端に寄り、国王陛下、ラズベリー侯爵の前におバカ殿、マリナ そしてわたくしが一直線に並ぶ形になりました。 「アルフレード、お前は何をしたのだ」 国王陛下の声はわたくしの拡声魔法が無くともフロア全体に低く響いた。 「俺・・わたしは真の聖女マリナと本物の愛を見つけたのです。治癒魔法であればマリナもつかえます。そして、心の美しさはまさに聖女です。真の聖女を虐める心の卑しいエミリアが聖女であるはずもなく・・」 「黙れっ」 さきほど、映像を見せても尚、わたくしがいじめをしていたと言い張るおバカ殿の言葉を国王陛下が遮った。 「マリナ嬢の母親は聖女ソフィアではなかろう。どれほどの治癒魔法が使えるのか知らぬが結界を代々守っているのは聖女エミリアだ」 おバカ殿下は慌てながら「結界など伝説の一つでは」 「バカもーーーーーーん」 またしてもおバカ殿下の言葉を遮る。 「聖女エミリア、わしから謝罪をしよう。アルフレードがバカなことをしでかして申し訳ない」 頭を下げる陛下の姿に会場はさらに物音一つしなくなる。 国の長である陛下が一介の公爵令嬢に頭を下げるとは思ってもいなかったおバカ殿下もただならぬものを感じたのかみるみると顔色が悪くなっていく。 「国王陛下、お顔をお上げください。アルフレード殿下との婚約はこの通り、破棄となりました」 そう言って、破り捨てられた婚約誓約書を指さす。 「なんということ・・・」 「それでは、わたしはホワイトカラント公国へ帰ります」 ゲス父がお母さま亡くなると、領地をほったらかしにして王都から出ることはなかった。 生前お母さまや、わたくしがこっそりと領地を整備していたため、領地の邸宅にはどこからでも瞬時に行けるように魔法陣がありお母さまもわたくしもそれを使い瞬間移動をしていた。お母さまは全属性は扱えなくとも闇魔法の応用が非常に上手でした。 「公国・・・・」 陛下はそう呟くと膝をつく。その陛下をラズベリー侯爵が支えている。 「最後に、わたくしからのプレゼントです」 そういうと、状態異常の解除魔法をフロア全体に掛けるとマリナが「やめてえええええ」と半狂乱になっている。 そう、あの子が使えるのは魅了の魔法だけ。何かが治ったような気になったのは魅了により感覚が鈍くなっているだけだ。 さらに、二度と同じ魔法にかからないようにプロテクトを掛けた。 自分の行いをすべて記憶したまま、魅了だけが取れ、さらにもう二度とマリナの魅了にかかることはない、現実を受け入れられず、魔法に逃げることはもうできないのだ。 そのとたん、あちこちからうめき声や悲鳴が聞こえる。 マリナの魅了により治った”気”になっていた患部が痛みだしたのだ。 ”自然治癒”したものも綺麗に治っているように見えていた患部が実は酷い状態になっていることに”気がついた”のだ。 そして、近衛騎士団長の息子であり、ブラックベリー侯爵を継ぎ殿下を守る剣になるはずだった色ボケハミルトンは自身の腕がいびつになっていることにようやく気が付いた。 訓練中の事故で右腕を骨折し、わたしくしが治療しようとしたとき偽聖女の治癒など不要だと言いマリナが”治療”をしたため、腕の固定すらせず”自然治癒”させた結果ズレてつながった腕は微妙に向きがおかしくなっており今まで通りに剣を扱うのはむずかしいだろう。 むしろ、これからはその腕が必要になるというのに。 そしてアルフレードの表情が昔昔、好きだったころの表情になっていた。 「エミリア・・・すまない」 だとしても、アルフレードさまはわたくしではなくマリナの手を取った。 魅了の魔法がかけられていたとしても、気持ちが少しでもなければ完全に落ちることはないし、わたくしにかけてきた数々の暴言も心にあった言葉が素直に出てきただけ、だってあの人は 隅に移動していたハルトさまを見る。 ハルトさまはずっとわたくしの味方だった。 アルフレードさまから疎まれても、ずっと忠告をしつづけた本物の忠臣。 ハルトさまと目が合い頭を下げるとハルトさまも同じように頭を下げていた。 「この時点をもって結界を解除いたします。必要であれば真の聖女であるマリナにお願いすればよいかと思います。とはいっても、結界を伝説のひとつと考えているようですので必要ないですよね」 「待ってくれ聖女エミリア、結界を解除されたらこの国は」 国王が何かを言っているが、もうわたくしには関係のないこと。 グズベリー王国は曾祖母である大聖女エレナの時代から結界を頼りに生きてきた。 この国はこれから昔のように瘴気により穢れた土地と定期的に行わねばならない魔物討伐をしていかないといけない。 もう関係ない ただ、ひとつ心残りがあるとしたら アルフレードさまの婚約者でなくなった今 いいえ、彼は忠臣です。 わたくしの気持ちは隠したまま ホワイトカラント領の邸宅にある魔法陣に向けてテレポートを開始した。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

268人が本棚に入れています
本棚に追加