電話越しの記憶

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 「蒼太、いまのとこ」  母に言われて、俺はチャンネルを戻した。  『では、早速いただいてみます』  テレビの中では、女性レポーターが飲食店で、今流行りの料理を食べている所だった。  「ゆづちゃんだ」 姉が同調して、2人で画面を見つめていた。  桜和実(さわみ)ゆづ―数か月程前からネットで話題になり、今では全国区の番組に出演することも少なくない。  彼女は、小学校のときの同級生だった。親が転勤族だったから、4年生の時に転校してきて、卒業と同時に引っ越してしまったから、3年程度だったけど。  最初は顔が似ているかもしれない程度の認識だったけど、名前を見て本人だとわかった。  桜和実という名字はそう多くはないはず。その上名前が同じなら本人で間違いないだろう、というのが我が家の認識だ。  騒いでいる母と姉を余所に、俺は黙ってチャンネルを変える。  「なんでかえるのよ」  2人して俺を咎めてくる。  面倒だから、チャンネルをまた戻してからその場を離れる。  別にとやかく言われることはないけど、なんかもやもやするから、なるべく出てきてもチャンネルを合わせなかったりする。
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