忘れられゆく者への挽歌

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 8月の猛暑の日中、秋田県内陸のポツリと孤立した山村の近くの山道を、1台の四輪駆動の乗用車が、なんとも乱暴な運転ぶりで走っていた。  運転席の薄茶色の髪の若い男が後部座席のやや年上の男に言う。 「もうじき着きますよ。銃の方は用意いいんですよね」  後部座席の無精ひげだらかの顔の男は、長方形の大きなケースを指差しながら答えた。 「ああ、散弾銃は持って来てる。弾丸もスラッグ弾てやつ含めてたっぷりあるぜ。熊に出くわしても何とかしてやるよ」  運転席の男は軽口をたたく。 「じゃあついでにウサギかなんか狩って、鍋とかやれませんかね?」 「ほんとに何も知らねえんだな。猟の期間は本州だとだいたい10月以降の秋から春先だけなんだよ。今回はあくまで護身用って事で警察の許可取ったんだ。熊が出たら守ってはやるが、それ以上の事は出来ねえぞ」 「ありゃりゃ、そうなんすか。ま、廃墟の映像が売れたら東京でうまい酒飲みましょうや」 「ま、前金はもらってるから、ボディガードは任せとけ。それにしても、廃墟の写真だの映像だのって、そんな物に需要があるのか?」 「あれ? 知りません? 廃墟を探検するって今ちょっとしたブームなんですぜ。軍艦島とか熱海のホテル跡とか」 「そういうものかねえ。お、ひょっとしてあれじゃねえのか?」  車の前方に小さな小屋のような物が見えていた。
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