その一 わたくし、深緑と申します! いちおう天女です、半人前ですが……。

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 ようやく宮殿に着くと宮殿付きの天女が、わたしたちを翠姫様のいらっしゃる露台へ案内してくれた。  翠姫様は、露台の長椅子に物憂げなお顔で座っていらした。  萌葱色の羽衣は淡い光を放ち、あたりには芳潤な気が立ちこめている。  神々に近づいたときにだけ感じる多幸感で、わたしは自然と笑顔になっていた。 「まあ、深緑。また、花布団で寝ていたのですね? 襟元に花びらが一枚挟まっていますよ。そろそろ、どこでも昼寝をしてしまう癖を直しなさい。いつまでたっても、天女として一人前扱いしてもらえませんよ」  優しく透き通った翠姫様のお声で言われると、お叱りの言葉さえ嬉しく感じてしまう。 「お許しください、翠姫様。水やりが終わって、お花の香りをかいでいたらつい――。これからは、翠姫様の手下(しゅか)として、お恥をかかせることがないよう心して務めます」 「ほほほ……。それは、心強いことです。早速、そなたに大事な頼み事をしたいのですが」 「へっ?」  翠姫様が目配せすると、林杏姉様と雨涵姉様は、露台と回廊を仕切る衝立の前に出て、誰も露台に近づくことがないように回廊を見張った。  蘭玲姉様は、露台の手すりの際に立ち、露台の下に広がる池や周囲の木々に目を配り、人の気配がないか目をこらした。  三人の動きを確かめると、翠姫様はわたしを手招きした。 「良いですか、深緑。明日より三日の間、わたくしと蘭玲、雨涵は下天します。ちょっと事情があって、今回の下天は天帝様には内緒です。わたくしたちが留守の間、庭番はそなたと林杏だけで行うことになります。そつなく、役目を果たすことはできますか?」  えっ?! いつもは四人でしていたお仕事を、林杏姉様と二人でするの!?  だ、大丈夫かしら? でも、三日もの間、天帝様に内緒で下天されるということは、それなりのわけがあってのことだと思うから、「無理です」とか「できません」なんて絶対言えないわ! 「もちろんでございます。お留守の間、林杏姉様と力を合わせ、しっかり天空花園のお世話をいたします。翠姫様、どうぞ、心置きなくお出かけくださいませ!」  あーあ、言っちゃった……。それも、自信たっぷりに……。  でも、わたしの言葉に、満面の笑みでうなずかれる翠姫様を見たら、ムクムクやる気が湧いてきたわ!   どんなご事情かわからないけれど、この深緑、敬愛するご主人様のためならば、全力でお役目を果たさせていただきますとも!
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