43人が本棚に入れています
本棚に追加
/110ページ
「深緑―! 深緑―! どこにいるのですう?!」
「深緑ったら、張り切りすぎて霊力を使い果たし、また、どこぞで微睡んでいるのでしょうか?」
「困った娘ね、いつまでたっても加減ができなくて――。わたしたち、もっとあの娘をきちんと躾けるべきだったようね。こんなことで、留守番なんて任せられるかしら?」
姉様たちが、わたしのことを探している――。
起きなきゃ! ああ、でも無理……。もう少しだけ、こうしていたいな……。
んふふ……、この花布団、柔らかでとってもいい香りなんだもの……。
「「「見つけましたよ、深緑! お昼寝の時間は終わりです!」」」
姉様たちの声、見事に重なっている! 美しい和音が耳に心地いい!
いやいや、そんなことに感心している場合じゃなかったんだっけ!
わたしは、慌てて花布団の上に立ち上がった。
「おはようござい……、じゃなかった! えぇっとぉっ……こんにちは……でもないですね……」
姉様たちが、あきれ顔でわたしを見ていた。
わぁっ! けっこう日が傾いているわ! もしかして、もう、「こんばんは」だったかな?
「深緑、ご主人様がお呼びです。大事なお話があるそうです。急ぎなさい!」
蘭玲姉様はそう言うと、芭蕉扇を一振りして、花布団を吹き飛ばしてしまった。
「このような姿では、ご主人様の前に連れて行けませんよ、深緑。身ぎれいになさい!」
林杏姉様は、わたしの羽衣についた花びらを、羽箒で優しく払ってくださった。
「いつまでも、わたくしたちに頼っていてはいけません。しっかりしてね、深緑!」
雨涵姉様は、懐から桃木櫛を取り出し、乱れたわたしの髪を梳いてくださった。
わたしは、油断すると落ちてきそうな瞼を、衣の袖でゴシゴシこすった。
あくびをかみ殺しながら、「うーん!」と言って一回伸びをしたら、蘭玲姉様に睨まれた。
林杏姉様と雨涵姉様が、口元に袖口を当てて笑いをこらえている。
姉様たちにがっちり三方を囲まれて、わたしは、とろんとしたまま、ご主人様のお住まいである宮殿へと向かうことになった。
わたしの名は、深緑。
天界の天人樹に実った天人果から生まれた、正真正銘の天女だ。
姉様たちと一緒に、天界の花園・天空花園の庭番をしている。
わたしのご主人様は、豊穣の女神・翠姫様である。
翠姫様が、天人樹園から幼いわたしを引き取り、これまで育ててくださった。
翠姫様からの大事なお話って、いったい何だろう?
わたしに付き添っている三人の姉様たちは、何も話してくれない。
何か、秘密の用件なのかしら。
それならそれで、ちょっとワクワクするのだけれど……。
最初のコメントを投稿しよう!