その一 わたくし、深緑と申します! いちおう天女です、半人前ですが……。

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深緑(シェンリュ)―! 深緑―! どこにいるのですう?!」 「深緑ったら、張り切りすぎて霊力を使い果たし、また、どこぞで微睡(まどろ)んでいるのでしょうか?」 「困った()ね、いつまでたっても加減ができなくて――。わたしたち、もっとあの娘をきちんと躾けるべきだったようね。こんなことで、留守番なんて任せられるかしら?」  姉様たちが、わたしのことを探している――。  起きなきゃ! ああ、でも無理……。もう少しだけ、こうしていたいな……。  んふふ……、この花布団、柔らかでとってもいい香りなんだもの……。 「「「見つけましたよ、深緑! お昼寝の時間は終わりです!」」」  姉様たちの声、見事に重なっている! 美しい和音(ハーモニー)が耳に心地いい!  いやいや、そんなことに感心している場合じゃなかったんだっけ!  わたしは、慌てて花布団の上に立ち上がった。 「おはようござい……、じゃなかった! えぇっとぉっ……こんにちは……でもないですね……」  姉様たちが、あきれ顔でわたしを見ていた。  わぁっ! けっこう日が傾いているわ! もしかして、もう、「こんばんは」だったかな? 「深緑、ご主人様がお呼びです。大事なお話があるそうです。急ぎなさい!」  蘭玲(ランリン)姉様はそう言うと、芭蕉扇を一振りして、花布団を吹き飛ばしてしまった。 「このような姿では、ご主人様の前に連れて行けませんよ、深緑。身ぎれいになさい!」  林杏(リンシン)姉様は、わたしの羽衣についた花びらを、羽箒で優しく払ってくださった。 「いつまでも、わたくしたちに頼っていてはいけません。しっかりしてね、深緑!」  雨涵(ユーハン)姉様は、懐から桃木櫛を取り出し、乱れたわたしの髪を梳いてくださった。  わたしは、油断すると落ちてきそうな瞼を、衣の袖でゴシゴシこすった。  あくびをかみ殺しながら、「うーん!」と言って一回伸びをしたら、蘭玲姉様に睨まれた。  林杏姉様と雨涵姉様が、口元に袖口を当てて笑いをこらえている。  姉様たちにがっちり三方を囲まれて、わたしは、とろんとしたまま、ご主人様のお住まいである宮殿へと向かうことになった。  わたしの名は、深緑(シェンリュ)。  天界の天人樹に実った天人果から生まれた、正真正銘の天女だ。  姉様たちと一緒に、天界の花園・天空花園の庭番をしている。  わたしのご主人様は、豊穣の女神・翠姫(ツイチェン)様である。  翠姫様が、天人樹園から幼いわたしを引き取り、これまで育ててくださった。  翠姫様からの大事なお話って、いったい何だろう?  わたしに付き添っている三人の姉様たちは、何も話してくれない。  何か、秘密の用件なのかしら。  それならそれで、ちょっとワクワクするのだけれど……。
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