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わたしは、翠姫様の手を力強く握り、まなこを見開いてお顔を見つめた。
翠姫様は、わたしの手を優しくお外しなると、白くしなやかな手でわたしの髪をゆっくりとなでながらおっしゃった。
「よろしく頼みましたよ、深緑。いつかきっと、そなたにも、わたくしの気持ちがわかる日が来るでしょう。いや、そんな日は来ないほうが、天人としては幸せなのかもしれないけれど――」
「翠姫様……?」
えっ? 今、翠姫様は、わたしの髪にお顔を埋めて涙をおこぼしになった?
いつの間にか、姉様たちが翠姫様とわたしの周りに戻ってきていた。
姉様たちは、翠姫様にお仕えして長い。
きっと、わたしが知らない様々な事情をご存じのはずだ。
蘭玲姉様が、いたわるような眼差しを翠姫様に送りながら、小さな声でおっしゃった。
「わたくしたちは、これから下天の準備を始めます。深緑は、もう天人寮へ戻りなさい。そして、明日は夜明けとともに宮殿に来て、天空花園の世話を始めるのですよ。林杏の言い付けをよく聞いて、しっかりお励みなさい」
「はい、承知いたしました!」
わたしは、翠姫様や姉様たちに見送られて、宮殿を後にした。
天人寮へ戻る途中、天人樹の近くで、夢中になって書を読んでいる雅文を見かけた。
わたしと雅文は、天人樹に実った二つの天人果から、ほぼ同時期に生まれた。
体を動かすことが好きなわたしと違って、雅文は、書を読むのが大好きで、天界の文殿にもよく通っている。
わたしたちは、見た目も性格もあまり似ていないと思うのだけれど、「双子」と言われることもある。
わたしにとっては、雅文は、姉妹というより朋友に近い感じかしら。
わたしが来たことに、気づきもしない雅文。何をそんなに熱心に読んでいるのだろう? ちょっと驚かしてやろうかな?
わたしは、灌木に隠れながら、そっと雅文の背後に回った。そして、両手を突き出して――。
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