取調室と冷やし中華

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 あー暑い。残暑が厳しい。夏の終わりになる頃、俺は取調室で板垣修を取り調べていた。  板垣を窃盗の容疑で捕まえた。でも、板垣はなかなか口を割ろうとしない。もう暑い夏も終わる。  板垣に俺は自白して欲しかった。しかし板垣は黙秘を続けている。俺は板垣に話しかけた。 「おまえ、いつまで黙秘を続けるつもりだ」 「……」  板垣はずっとこの調子で無言のままだった。俺は昼時になって冷やし中華の出前を注文しようとした。板垣に確認を取る。 「今日も暑いから冷やし中華でいいか?」  板垣が神妙な顔をしてこくりと頷いた。こういう時だけ返事をしやがって。  冷やし中華が届いて板垣の前に出すと、板垣は貪るように食べ始めた。いつものことだが腹が立つ。  そういえば明日から九月か。まだ暑いが、もう秋だからそろそろ冷やし中華はやめにしようか。 「板垣、明日から冷やし中華ではなく取調室の定番のカツ丼だ。それでいいな?」 「自白します!」 「えっ、急にどうした? 自白してくれるならありがたいが」 「俺は夏の間、この取調室は冷やし中華が出るという噂を聞いて、窃盗をしました。捕まるのが目的だったので、武器は所持していませんでしたが」
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