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【第1話 : 相馬 1】
「それじゃ、行ってくるよ」
細長いクッキーをかじりながら、リビングにあるソファに座って楽し気にテレビを観ている妻の有希に、出勤前の挨拶をした。
「あれ? 今日は随分早いんだね。まだ昼の三時じゃん」
「今日は、夜勤の前に打ち合わせがある日なんだよ」
「ああ、そうなんだ。ホント不規則なんだねぇ。せっかくあと三十分くらいで耕太も春斗も小学校から帰ってくるんだから、もう少し待てばいいのに。二人も喜ぶよ」
俺はバツが悪く、有希の目をまともに見れなかった。
「仕方ないって。そういう条件で雇ってもらってるんだからな。ただの夜間警備員としてじゃなくて、資料作成やら何ならが必要な時は手伝うっていう条件でさ」
「でも、転職してもう三年くらい経つんだから、そろそろその条件をはずしてもらえばいいのに」
「だからその分、給料を高くしてもらってるしさ。給料、減るのは嫌だろ?」
有希はクッキーをかじる手を止め、ウンウンと頷いている。
「そうだよね。進次郎は、少しでも高いお給料をもらうために頑張ってくれてたんだよね。いつも本当にご苦労様です」頭をペコリと下げた後、屈託なく笑った。「いつもありがと。くれぐれも、体には気を付けてね。あと、話したいことがあったらいつでも話してね」
話したいことがあったら。この言葉に引っ掛かり、俺は思わず顔をしかめた。
もしかして、彼女なりに何か勘づいているのだろうか。
いや、まさか。
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