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そんなわけで、息子の理解も無事得られた私。
幸運なことに、今回は昔パーティーを組んでいた仲間も参加することになった。
「私はたまにパーティーに参加してたけど、アンタ専業主婦やってたんでしょ?」
昔の仲間である盗人が聞いてくる。ヒアルロン酸注射したてなのか、ぷるぷるのピンクの唇が目に付いた。
「そうよ。意外?」
「意外といえば意外。納得と言えば納得」
「なあにそれ。まあ、実はちょっと前、仕事してた。コンビニだけど」
「マ? どうだったん?」
「向いてなかったわ」
私は肩を竦めた。
「財布を盗むクソな同僚や、時給上げないどころか最低賃金で時間と労力を奪おうとする挙句、人を無能扱いする店長を殴れないのって、ストレスよねえ……」
「わかるー」
そう言ったのは、呪術師だ。メガネをクイッと上げると、キラッと光った。
「うちも社会勉強の一つとして、飲食店の仕事してたんだけどさ。セクハラとかパワハラとか放置すぎて無理だった」
「えー、最悪じゃん」
「ねー。忙しすぎて、問題解決する余裕がないってことなんでしょうが。田舎すぎて労基も全然動かなかったし。
研修期間内に退職して、セクハラパワハラかましてたやつら、全員股間に花咲かせて、労基の人達には性癖しか喋れない呪いかけといた」
「あんたはしっかり呪いかけてんじゃん」
盗人が呆れたように言った。
「で、あんたはどうしたの?」
「私?」
「殴れないからって、あんたが黙って職場を去るとは思ってないし」
盗人が面白そうに笑う。そんなに面白い話じゃないんだけどね。
「大したことじゃないのよ。ただ、そこのコンビニチェーンの社長、勇者業やってた時助けた人でね。ちょっと耳に挟ませただけ」
「昔のツテかー」
「情けは人の為ならず、ですな」
「ついでに店長、横領してたことが判明したわ」
「うわー、大事件じゃん」
「平和な世界でも、戦わなきゃいけないことが、山のようにありますな」
うんうん、と三人で頷いていると、
「遅くなってすみません!」
若い女の子――うちの息子と同じくらいの子が、走ってきた。
どうやら、彼女が今回の『勇者』らしい。
「初めまして。ぜぇぜえ。この度は、ぜぇ」
「大丈夫? ゆっくりでいいからね」
「そーそー」
「すみません! が、学校の補習で、少し遅れてしまって」
「あ、やっぱり高校生?」
「はい……高校三年生です……」
世界の命運のために、受験生を駆り出すな。しかも貴重な夏休みに。
「そりゃ大変じゃん。宿題とか山ほどあるし」
「模試もあるよね。うち、式神出せるから、代わりに補習補講模試受けさせるよ? もちろん宿題も」
「えっ!? や、でも、そーゆーの、自分で受けないと!」
「なーに言ってんの。命と時間を掛けて、一人の若者に世界救わせようっていうんだから、志望校のひとつやふたつ、受かることぐらいしたってバチはあたらないって」
「え、ええ~……」
真面目な学生さんなんだろう。呪術師と盗人の提案に、ドン引きだわ。
けれど、私も一人の親として、彼女の境遇は気になった。
高校生最後の夏休み。それが例え受験でなくなるものだとしても、一人の若者の青春を奪うような使命なんて……軽くやっつけないとね。
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